181 超絶イケメン現る
カーディナルは私たちの先回りをするように、すでにアイゼンにやって来ていた。
しかも、毎日のように獲物を見つけては被害者を増やしているらしい。
私たちは博士の元を後にし、今晩泊まる宿……
ホテルでいいのか。
を、求めて街を歩いていた。
輝力を奪っているケイオスを調べれば、吸血鬼被害者を手早く元に戻す方法も見つかるかもしれないって、博士は言っていた。
いつまでも足止めを食っているわけにはいかない。
でも、ビッツさんを置いていくわけにもいかない。
どうやらダイの望み通り、もう一度戦うことになりそうだ。
「でも、輝士団でも見つけられないケイオスを、私たちが捕まえられるんでしょうか?」
「……確かに」
フレスさんの心配は実にもっともだ。
今のところ、輝士が街中で戦闘を行った形跡はない。
被害者はすべて一般の人だ。
それはつまり、カーディナルが警備をかいくぐって犯行に及んでいるってこと。
街の地理すらよくわからない私たちが、カーディナルを探し出すこと自体がまず難しそう。
「それでも、なんとかして見つけないと。犠牲者が増えることも問題だけど、多くの人の輝力を奪って、あいつがこれ以上強くなったら取り返しが付かない」
ジュストくんと私の二人がかりでも敵わなかったケイオス。
ザトゥルさんが言うには、あれでも本調子じゃないらしい。
逆に考えれば、戦って勝てる可能性があるのは今しかない。
「犠牲者が毎晩一人ずつっていうのも気になりますね。力を奪いたいなら、一気に大勢の人を襲えば早そうなものですけど」
そういえばあの夜、カーディナルはザトゥルさんから輝力を吸わなかった。
それも何か理由があるんだろうか。
たとえば、一日に一人までしか輝力を吸えないとか。
いやいや、勝手な決めつけは危険だ。
「すまない、君たち」
三人でこれからのことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられた。
振り返ると、背の高い男性が立っていた。
輝士だろうか、煌びやかな装飾を施された鎧が気になる。
けど、それ以上に目を引くのは、その容姿。
「カッコイイ……」
思わず呟いてしまったフレスさんの気持ちもわかる。
紫色の長い前髪に隠れた甘いマスクは、普通の女の子なら一目見で恋に落ちてしまいそうなほど。
簡単に言えば超絶美形だった。
いや、私はジュストくんがいるから、そういうことはないけどね?
ふと、周りから黄色い声が飛び交っていることに気付いた。
そこら中の女の人が老若問わずにこちらに……
というか、この輝士さんに注目している。
「マルス様よ! マルス様だわ!」
「相も変わらずお美しいわ……」
「こんなところでお姿を拝見できるなんて、今日はなんて幸せなんでしょう!」
「一体なにをなさってらっしゃるのかしら?」
「誰よ、あの女!」
うっ、なんかすごい気まずい。
なんだか私たちに敵意が向いてるような気もするし。
「街の外からやって来た人たちだね? 吸血鬼と戦ったことのあるという」
「い、一応そうですけど……あなたは?」
紫色の美青年輝士は「失礼」と言い、懐から見覚えのある紋章を取り出した。
アレは確か、ザトゥルさんの剣についていたのと同じものだ。
「僕は
※
マルスさんに連れられ、街の中心近くにある高級食堂にやってきた。
メニューを眺めてみると、あまりの金額に目が丸くなる。
お財布を確認しようか悩んでいる私に、マルスさんは人の良さそうな表情で微笑んだ。
「もちろん僕のおごりだから、遠慮なく注文してくれ」
ダイがいたら手放しで喜びそうなことを言ってくださる。
顔だけじゃなく性格までいいなんて、どうなってるんだろう。
これじゃ女の人たちが騒がないはずはないよねえ。
フレスさんなんか、さっきから半分くらいとろけてるし。
よし、ここは素直に奢ってもらっちゃおう。
「すいません、ご馳走になります」
「遠慮しないで。誘ったのは僕のほうだから、好きなだけ食べてくれ」
「けど悪いです。僕たちの分は自分で払いますよ」
ジュストくんが言う。
う……そ、そうよだね。
一応そう言うのが礼儀だったかもしれないね。
「本当にいいんだよ……ジュスティツァ君、だったね」
「は、はい。僕の名前を?」
「ザトゥル先輩から聞いているよ。かなりの達人なんだってね、是非会ってみたいと思っていたんだ」
「ザトゥルさんがアイゼンに来ているんですか?」
「ああ。もうすぐ自慢の弟子がアイゼンにやって来るから、見かけたらよろしくしてやってくれとね」
村の近くに残るって言ってたけど、カーディナルを追ってか、ザトゥルさんもアイゼンにやって来ていたみたい。
途中で馬車を失った私たちはいつの間にか追い抜かされちゃってたらしい。
「それで、吸血鬼についてなんだけど」
料理を注文し終えると、マルスさんは話を切り出した。
カーディナルと交戦した私とジュストくんは、戦ったときの状況を思い出せる限り彼に説明する。
※
「なるほど、電撃使いか。厄介だな」
説明を聞き終えると、マルスさんは独り言のように呟いた。
ちょうど料理が運ばれてきたので、私たちは食べながら会話を続ける。
「ザトゥルさんからは聞いてなかったんですか?」
そういえば、ザトゥルさんもカーディナルと戦ったよね。
わざわざ私たちを訪ねなくても先輩に聞けばいいのに。
「情報の共有はできる限りしない方針でね。特にこの件に関しては先を争うライバルだから」
「ライバル……ですか?」
「僕たち星輝士は帝国に所属する仲間であると同時に、功を競う敵同士でもあるのさ。お互い、周りより多くの戦功と栄誉を求めたいと思っている。吸血鬼退治も早い者勝ちというわけさ」
「なんかそれって変ですね。協力した方が効率いいんじゃないですか?」
お互いを出し抜いたりライバル視したりしてたら、味方を信用できなくなっちゃうよ。
本当の敵との戦いの時、自分たちが困ると思う。
「その徹底的な個人主義が星輝士の強さの秘訣なんだよ。誰にも負けない。誰よりも強く。その気持ちを常に持ち続けているから己を高められる。もちろん、部下や同僚から信頼を得られない人間に勤まる役職ではないけどね」
なんだか難しい人たちだなぁ……
私だったら、仲間とは協力し合いたいと思うけど。
「足を引っ張るようなことは輝士の名誉に誓ってやらないよ。本当に必要になれば協力だってしないわけじゃない」
敵の情報を教えない時点で、足を引っ張ってるとは考えないんでしょうか。
「ともかく、おかげで今夜は楽に戦えそうだよ。どんな強敵でも、能力さえ知っていれば対処できるからね」
「肝心の吸血鬼は現れるんでしょうか。これまで輝攻戦士が吸血鬼と接触した例はないと聞いていますが」
ジュストくんの言うとおり。
戦いの作戦が立てられても、カーディナルが見つからないんじゃ仕方ない。
「確かに、吸血鬼は獲物を選んでいる。ザトゥル先輩も未だに接触できていないようだ」
「では……」
「心配は無用。やつをおびき寄せる方法はすでにわかっている」
「そんなのがあるんですか?」
「吸血鬼は無差別に獲物を狙っているわけじゃない。犠牲者には共通した特徴があるのさ」
カーディナルが獲物を選り好みしてる?
ええと、博士のところで寝ていた人たちってどんな特徴があったっけ。
「まあ、見ててくれ、明日の朝には必ず僕が吸血鬼を退治して――」
「マルス」
ドアの方から、女の人がこちらに向って呼びかけていた。
どことなくマルスさんに似た顔つきで、髪の色も同じく紫だ。
こちらもかなりの美少女だった。
「メルク。どうした?」
「どうしたじゃないわよ。情報収集に出たきりちっとも帰ってこないから、迎えに来たのよ」
「ああ、すまない。今ちょうど吸血鬼と戦った経験のある人たちに話を聞いていたんだ」
メルクと呼ばれた女の人が私たちに気づく。
彼女は慌てて口元を押さえると、優雅な動作でお辞儀をした。
「お食事中にお騒がせしました。私はメルク。マルスの妹です」
似ていると思ったら兄妹だった。
いいなぁ、美男美女兄妹。
「それで、何かわかったの?」
「有益な情報を得られたよ。帰って作戦を練ろう」
「え、妹さんといっしょに?」
「私も星輝士なんです」
「えっ」
二人とも超絶美形の上に、揃ってこの国最高の輝士。
なんだこの完璧兄妹……
「星輝士は互いがライバル同士だって言ったけど、メルクは別なんだ。僕たちは兄妹で協力し合ってここまでやってきたからね」
しかも仲良しだし。
いいなぁ、私もお兄ちゃんが欲しかった。
マルスさんはテーブルの上にお金を置くと、剣を手にして席を立った。
「悪いけど、先に失礼させていただくよ。おつりは取っておいてくれ」
「え、そんな。悪いです」
テーブルに置かれたお金はかなりの金額だ。
どうみても料理代の数倍はある。
「話を聞かせてくれてありがとう。吸血鬼は必ず今夜中に捕らえる。君たちの仲間を元に戻す方法も吐かせてみせるから、安心して待っててくれ」
それだけ言って、マルスさんはメルクさんと並んでレストランを出て行った。
「えっと……どうしようか」
彼らが完全に姿を消してから、私はジュストくんに尋ねた。
「任せておけばいいんじゃないかな。最優先するのは王子の治療だし、星輝士があそこまで言ってるんなら任せても大丈夫だよ」
そうだよね……
じゃあ、あの二人がカーディナルを退治してくれるのを待ってよう。
とりあえず冷めないうちに料理を頂きましょう。
お腹空いちゃったしね。
こんな高級なお店に入るのは初めてだから、ちょっぴり緊張しちゃう。
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