♯42 異世界の許嫁
「ユ、ユイ……」
ユイは目を閉じたまま、じっと俺を待っている。
ごく、と生唾を飲む。
勝手に『思考加速』スキルが発動し、俺の脳内で様々なシミュレーションが起こる。その結果、ここでユイから逃げてしまうのは最悪のパターンだと把握した。
――よし、お、俺も男だ!
「……ユイ!」
右腕はユイに掴まれていたため、もう左手でユイの肩を掴み、顔を近づけていく。
そして……震える口でついに!
ユイと――キ、キスをしてしまったっ!
事が終わると、ユイはそっと目を開けて。
「……えへへ。私、幸せです」
なんて、ものすごく嬉しそうに微笑むものだから。
「くっ……だああああああもう可愛すぎ! ちょっとユイ反則すぎだろ!」
「きゃっ! カ、カナタ?」
思わずユイを抱きしめてしまう俺。ユイは当然きょとんとしていた。
「ずるいって! そんなこと言われてくっつかれて! さすがにもう逃げられないよ! そりゃユイは可愛いし優しいし料理も上手いしスタイルだって良いし! 嫁にしたいなんて言ったのは冗談だけど本心でもあって! でも俺を好きになってもらえるとは思ってなかったからさ! なのにこんなことになってなんか夢みたいで!」
「え……」
「はいはいそうですユイが好きです! 俺も男だ! キスまでしたんだし認めるよ! いっつも一緒にお風呂入っててもんもんとしてたし、ずっとこうやって抱きつきたいなーなんて思ってた! そりゃ俺だって年頃の青少年だし! 悪くないですし! これが自然ですし!!」
「カ、カナタ……」
「つーかもうこうなった以上は俺の方がユイを離さないからな! 大人になったらマジで嫁になってくれる!? 俺本気で嫁にするよ!? 許嫁になってくれる!?」
恥などかなぐり捨てながら思ったことを早口で述べ、身体を離してユイの反応を待つ。
ユイは俺の真正面で何度かまばたきをして、それから「ふふっ」と声をもらし、
「はい。喜んで」
と、また一段と嬉しそうに微笑んだ。
「よっしゃあああああー! 異世界で最高に可愛い嫁ゲットおおおおおおっ!」
「私……勇気を出して言ってよかったです。まさか、こうなるとは思いませんでしたけど……その、いろいろとごめんなさい……」
「いやマジで驚いたよ! いきなり一緒に来るなんて言われて、あー、でも嬉しかったのはほんとだからさ。もう謝らなくていいよ。それにもう許嫁なんだし!」
「カナタ……はい♪」
ユイはまたぴったりと俺に寄り添い、そして頬を赤らめながらつぶやいた。
「こんなふわふわした気持ち……初めてです。きっと、これが愛……なんですね。胸の奥が温かくて、とっても幸せな気持ちで、満たされています……」
「ユ、ユイ……」
「……カナタ。口づけだけで、いいですか?」
「え?」
「大人になるまで子作りは出来ませんが……子作り以外のことは、何をしてもいいんですよ」
「……な、なん、でも?」
「はい。私の身体は、もうカナタに捧げています。好きなところに触れて、好きなところに口づけをして、好きなようにしてくれていいですよ……?」
「え、え、え……」
「それに……カナタがしてほしいことがあれば、私がなんでもしてあげますから……」
ユイはその両手を広げて、俺を受け入れようとしてくれている。
その綺麗な身体は艶やかに色めき、瞳はとろんと色っぽく惚けていて、薄紅の頬はいつもよく蠱惑的に映る。
――ユイに、何をしてもいい?
――好きなところに、触っていい?
――何でもしてくれる?
「カナタ……大好きです……」
――天使だ。
――天国だ。
きっとこんなこと俺の人生でもうしばらく来ないだろうとあのお姉さんのときに思ってたのに、まさか異世界に来てこんなことになるとは、さすがに妄想ですら思えてなかった。
だってこんなことあるか?
ユイみたいな可愛い女の子が俺のことを慕ってくれて、嫁になるなんて言ってくれて! しかもこんなことになっておるのだぞ!!!
だから、ついに我も忘れて必死になってしまう。
もう、ユイしか見えなくなっている。
彼女に触れたい。ユイとこのまま溶け合ってしまいたい。
「…………カナタ」
ユイがまた、優しい瞳で俺を呼ぶ。
完全に魅了されきった俺は、そのままユイの唇に吸い寄せられていき――
――あ、あれ?
――おかしいな? なんかちょっと、フラフラしてきたような?
「カナタ…………私、なんだか、身体がふわふわして……」
「……………………」
「…………カナタ? ……あの、ど、どうしました?」
「……………………」
「カナタ?」
「………………………………がふっ」
「きゃあっ! カ、カナタ? え? カナタ! だ、大丈夫ですかっ!?」
――あれ? なんで夜空が見えるんだ?
――はは、それにしても星がいっぱいあって綺麗だなぁ。あれはこの世界だと何座なんだろうなぁ。
――頭が妙にスッキリしてきて、心が洗われるナァ。力が抜けていくナァ。なんだかすごく気持ち良いよ。ああ、俺、ついにユイと致してしまったんだろうか。
「カナタ! カナタッ! は、鼻から血がいっぱいでてます! 顔も真っ赤で……! のぼせてしまったのでしょうかっ。カナタ、しっかりしてください! カナタ!」
「ユイねえさま? カナタさまどうしたの~? わわわっ! は、はなぢです!」
「アイ! カナタをお風呂から出すのを手伝って!」
「は、はい~わかりました!」
「んしょ、んしょ…………カナタ! カナタしっかりしてください! えっとえっと、アイ! 川のお水を汲んできて!」
「は、はぁ~い!」
「カナタ……きゅ、急にどうしたんでしょう。大丈夫ですよっ、私がそばにいますからね!」
「ああ…………ユイ……ありがとう……。天使みたいな美少女エルフ嫁に愛されて……感動をくれて……ユイみたいな子に出逢えた我が人生に……一片の悔いなし…………がくっ……」
「カ、カナタ何を言ってるんですか!? 意識がだいぶ朦朧として……カナタ! カナタ~~~~!」
――というわけで。
俺はスキル『気力回復』が自動発動するまで鼻血を出したままうつろに夜空を眺めてぶっ倒れていたわけだが、ガキらしくそこで行動不能になって良かったと思う。俺にはまだいろいろ早いのだ。あのまま暴走してユイに嫌われてたらかなわんし。そうだ。来る日のための勉強だったのだ!!
なんて思うことで無理矢理自分を納得させ、今後はいろいろ鍛錬していかなければと思った。
そんな、情けなくも思い出深い夜となったのだった……。
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