♯36 シャルとヴァリアーゼメイド隊三人娘
そんな三人での入浴を済ませ、着替え直した俺たちは揃って森の入り口――結界の外にまで戻ってきた。
「あ、シャル。あそこが入ってきたところだよ」
「おお。ありがとう、助かった」
シャルを連れて結界の外に出れば、その場で待っていたメイドさんたちが一斉に立ち上がってシャルの元へ寄る。
シャルを村に案内し、温泉に入れてからここに戻るまで大体一時間半くらいかかったか。なんかメイドさんたちを待たせて悪かったな。
「シャルロット様。おかえりなさいませ」
「お待ちしておりましたでっす! お怪我はありませんかっ?」
「あ、あの、おかえりなさいませ……」
長い黒髪のメイドさんは礼儀正しく淑やかに。ショートボブのメイドさんは明るく。ふわふわ栗色セミロングのメイドさんはどこか控えめ。そんな印象のある人たちだ。
「テトラ、二人の前で失礼なことを言うな。怪我などあるはずもない。丁重に扱っていただいたのだ」
「はいっ! も、申し訳ありませんっす!」
シャルに怒られ、慌てて頭を下げるメイドさん。
ここへ来る途中にシャルから聞いたが、濡羽色の長い髪の人がリリーナ、ボブカットで右側だけ髪が少し長い特徴的な髪型の子がテトラ、ふわっと柔らかそうなセミロングの子がアイリーンという名前らしい。使用人として前に出てはいけない教育をされているということで、だから俺たちに名前を名乗るようなこともしなかったようだ。
三人とも若いとは思ったが、リリーナさんが18歳と同い年で、テトラとアイリーンが15歳とのこと。まだ年若いにもかかわらず三人とも使用人として、そして武の才もあるということで、シャルが特別目をかけているらしい。
気弱そうなアイリーンはおそるおそるシャルロットへ近づき、
「シャルロット様。あの、少しお髪が濡れているようですが……」
「ん? ああ。気にしなくていい、アイリーン。その、お、おもてなしの一環でな」
「は、はぁ……?」
「シャルロット様シャルロット様! どんなおもてなし受けたんですか? 何か美味しい物とか食べました? そうだ噂のお風呂はどうだったんすか! 髪が濡れてるってことはお風呂に入ってたんじゃ! 聞きたいっす!」
「こ、こらテトラ! 二人の前だぞ!」
テトラという子がアイリーンをどけてまでシャルに近づいて目を輝かせ、シャルが困惑。
が、そこへリリーナさんが割り込み。
「――テトラ。アイリーン。これ以上シャルロット様に恥をかかせるつもりですか?」
「「ひっ!」」
その声に二人のメイドは背筋を伸ばして硬直し、リリーナさんが小さなため息をつく。
「ちょうどよい機会です。ここであなたたちの教育もしっかりとしておきましょう」
「そ、そんなぁ~! こんなところでまでやらないでいいっすよリリーナさん~!」
「うう……わ、私まで……?」
「問答無用です。まずテトラは――」
が、容赦なく説教を始めるリリーナさんと、涙目になるテトラとアイリーン。これだけでもう三人の力関係がハッキリとわかってしまった。それに、テトラとアイリーンは首元のリボンが青なのに、リリーナさんだけ色が赤いから、それで階級の違いを表しているのかもしれない。
そしてごほんごほん、と誤魔化すようなわざとらしい咳をするシャルについ笑いそうになる俺である。
「え、ええと……カナタ? 皆さんが何を話しているのかわかりますか……? なんだかシャルさんやあちらの方が怒っているみたいですが……」
「え? ああそっか。ユイには言葉が……ユイ、俺の手、握って」
「え? は、はい」
と、そこで俺はユイと手を繋ぎ、【言語統一】のスキルをユイに【転写】した。
突然俺たちが始めた行為に、シャルたちは一体何事かとこちらを見つめており、説教もすっかり止まってしまっていた。
「よし、これでOK」
「おーけー? どういうことでしょう……?」
「試してみればわかるよ。あの、メイドさんたち。すいませんがユイと何か話をしてもらえませんか?」
俺がそういうと、リリーナさんたちメイド三人は不思議そうな顔をしたが、その場でユイに簡単な挨拶と自己紹介をしてくれる。
ユイは驚きの声を上げた。
「……す、すごい! みなさんの言葉がわかります! で、でも……あれ? アルトメリア語ではないはずなのに、どうして……」
「それが俺の使ってる【言語統一】ってスキルだよ。それがあればどんな国のどんな言語の人とも話が出来るんだ」
「ふぇ……す、すごいです……!」
「メイドさんたちも、俺たちの会話わかるでしょ?」
「おわーっ! あ、あたしもわかる! わかります! さっきまでみんなアルトメリア語でなんにもわかんなかったのに! すげーすげーなにこれ!」
「わ、私もです。い、一体何が起きて……?」
ユイに続き、テトラ、アイリーンも同様の反応を見せた。リリーナさんもわずかに目を大きく開いており、シャルなど感動している。
「おお、今のは何だカナタ殿! 今のが勇者の力なのか!? もしや言語を理解する『才能』かっ!」
「あ、ああうん。そんな感じ。俺は力を他人に渡すことが出来てさ。ユイがみんなと話せるようにしたんだ」
「おおお……素晴らしい! 良い土産話が出来たッ! というかもっといろいろと話が聞きたいぞ!」
「シャルロット様。今回はこの辺りで……次のお仕事もございますので……」
「うっ……じ、時間さえあれば……!」
目をキラキラさせて子どもみたいに明るくなるシャルと、それをなんとかなだめようとするリリーナさん。やっぱシャルは根っこが可愛いな。
と、そこでユイが言った。
「あの……でも、カナタ。私なんかにこんなスキルを……よかったんですか?」
「ん。大丈夫。魔術と違ってスキルは何度でも【転写】出来るみたいなんだ。たぶん根本的に違う力だからかな。それに、ユイとはこれからも長い付き合いになるかもしれないしさ」
「カナタ……!」
ユイは胸の前で手を組み、破顔した。
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