♯35 少女騎士の秘密の趣味
で、なんとか三人で無事に入浴。
少し熱めで血行が良くなりそうなお湯は、じんわりと身体の中に浸透して俺の筋肉のコリもゆっくりほぐしてくれる。それはどうやらシャルも同じようで……
「おお……これは心地良い湯だなっ。全身がほぐされ、芯まで温かくなっていく……。これがアルトメリアの秘湯なのだな。こんな湯は我が国にはないぞ」
そのお湯を手に取り、感動した目で肩などにかけていく。その満足げな姿に俺もユイも喜んだ。
一応【神眼】スキルで既に確認済みだが、シャルはある程度魔力を持っている人間らしく、アルトメリアの秘湯に浸かっても、短い時間であれば『効能』に当てられるような問題はなさそうだ。まぁ長湯は危ないだろうが、それまでには上がってもらおう。
「よかった、シャルさんにも気に入ってもらえて」
「うん、ありがとうユイ殿。せっかくだからもうしばらく楽しませてもらおうかな。待たせている部下たちには悪いが………………はにゃぁ……」
そう言って肩まで浸かり、ほっこりと顔を緩ませるシャル。その際になんかネコみたいに可愛い声が出ていてちょっと笑う。
「むっ? な、なぜ笑うんだカナタ殿」
「あ、いやごめん。なんかシャルって騎士らしくお堅いイメージだったけど、意外とそうでもないのかなって思ってさ」
「え? ど、どういう意味だ?」
「いやさ、今『はにゃぁ』とか言ってて可愛かったし」
「はにゃ!? か、かわっ、可愛いだとっ? というか私はそんなことを言ったか!? くっ。と、殿方の前でなんたる恥を……! あううううう!」
かぁ、と紅潮していくシャル。
思わぬ反応にちょっと楽しくなる俺。この子、こう見えて内面は可愛いタイプなんじゃないか? ほら、実はぬいぐるみとか集めてるみたいな。
というわけで訊いてみた。
「なぁシャル。実は部屋にぬいぐるみ集めてたりしないか?」
「なっ!? な、なななななぜそれを知ってる!? 誰にも話してなどいないし、あの部屋だけは誰も入れていないのに!?」
「おお、当たった」
「なぜ知っているのだカナタ殿!! ま、まさか勇者の力を使って……!? どういうことか説明してくれ! 私の部屋を覗きに来たのか!? よもやあの子たちに何か手を!」
「うおおおお!? ちょ、待って落ち着いてシャル! 違うって! たまたま! たまたまだから! もしかしたらと思って訊いただけうげぇぇぇぇぇ!」
シャルに首を絞められ、バンバンとその手をタップして降参する俺。
するとシャルはパッと手を離し、
「た、たまたま……本当なのか……?」
「ごほごほっ! ほ、ほんとほんと。なんか実は可愛い趣味してそうだなって思っただけだから」
「そ、そうなのか……うう、す、すまない。早とちりをした……! 詰め寄ってしまったかわりに私のことを殴ってくれ!」
なんて言って、お湯の中で正座して頭を下げるシャル。前髪までずぶ濡れになってしまったが、そんなこと気にせず口を真一文字にして俺を待つ。
「ええっ!? いや無理無理! 気にしてないから大丈夫だって! そんなのやめやめ!」
「うう……しかしそれでは私の気が……!」
「そこはちょっと我慢してもらうしかないわ……でも、あはは。ちょっと驚いたけど、よかったよ」
「え? な、何がよかったのだ?」
疑問に首をかしげるシャル。俺は苦笑しながら言った。
「いやさ。なんか急激に親近感湧いてよかったなって。な、ユイ?」
「ふふ、そうですね。こうして一緒に温泉にも入ってくれましたし……シャルさんは温かい心を持った良い人だなと思います」
「そ、そうか? そう思ってもらえるとありがたいが…………むう、秘湯の気持ちよさで気を緩めすぎてしまったか……。ヴァリアーゼの騎士たるもの、もう少し気を引き締めなければ……模範になるべく……」
ぶつぶつつぶやきながら顔を赤くするシャル。
こうして鎧を脱ぎすて、裸になったシャルを見て思ったけど、やっぱこの子すごい美人だな。
青っぽい髪や目はクールに見えて格好良いし、細身ながらしっかりと鍛えてある体つきは健康的で、そんな全身からは凜とした雰囲気を感じる。
でも髪はサラサラしてまつげは長かったり、唇は綺麗なピンク色だし、肌はきめ細かくて白かったり、鎧に隠れていてわからなかった胸も結構大きい。
いやほんと、改めて見るとものすげぇ美人だな。俺と同い年くらいとはとても思えない。
身体に少し傷……みたいなのもあるけど、たぶん戦いで出来たものなんだろう。そう思うと、やっぱりこんな女の子でも騎士なんだなと実感する。でも、そんな子がぬいぐるみ集めしてるのかと想像すれば、やっぱり女の子でもあるんだなって微笑ましくもなる。
そして俺と混浴して触れ合ってしまったせいで、【竜脈活性】のスキルが自動発動しており、シャルのレベルがじわじわと上がってしまっていっていた。と、とりあえずこれは黙っておくか……。
なんて観察していた俺に、シャルのジト目が突き刺さっていた。
「むう…………」
「あ、あれ? シャルさん? な、なんでしょう?」
「カナタ殿……そんなに私の貧相で女らしくもない身体を見て楽しいか……?」
そっと身体を隠しながら低い声でそう言うシャル。俺は慌てて答えた。
「う、うわごめん! つい! でもそんなつもりじゃなくて! その!」
「むむむ……皆で湯に浸かるのがアルトメリアの流儀とはいえ、そもそも異性の裸を凝視するのは男としてどうなのだ! 私の国では男女で混浴するなどありえんぞ!」
「ハイ普通そうっすよねわかります!」
「大体男女が裸で湯を共にするなど、ち、誓い合った者同士くらいであろう! それを当たり前のように行うなど……ユ、ユイ殿も何か言ってやれ!」
「え? 私は気にしませんが……。それに、シャルさんは綺麗だと思いますよ」
「ぬなっ! な、な、ななななにを!」
ユイに不意打ちをくらい、シャルが動揺して立ち上がる。
おかげで思いきり全身が見えてしまっていたが、シャルはそんなこと気にしないくらいわかりやすく困惑していた。
そこで俺もたたみかける。
「そ、そうそう。俺だってそう思ってたよ! 女らしくないとかそんなことないって! 鎧着てたときはわかんなかったけどさ、女の子らしくて綺麗だなって思ってたんだよ!」
「はにゃ!? カ、カカカナタ殿まで何をっ! せ、世辞はいい! こんな戦いしか知らない女の身体がどうだというんだっ! ユイ殿と違って醜いものだろう!」
「いやお世辞じゃないって。つか醜いはずないだろ」
「そうですよシャルさんっ! シャルさんは女性としても魅力的だと思います!」
「うにゅっ!? う、ううううううう~…………!」
俺とユイの褒め言葉に動揺しきったシャルは、そのままゆっくり湯の中に戻っていき、口までぶくぶくと湯に浸けて黙り込んでしまった。
少しして口を上げると。
「…………せ、世辞でも嬉しい…………ありがとう……」
なんて可愛いことをつぶやき、俺とユイは顔を見合わせて笑った。
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