♯34 アルトメリアらしい歓迎
そんなこんなで、シャルがすっかりアルトメリアのみんなと馴染んだ後、シャルはいったん国に戻って例の王子様とやらに話を伝えてくれることになった。
おそらくこれで、もうこの里がヴァリアーゼに襲われる心配もないだろうとのことだ。
「わざわざ見送りをしてもらってすまない、ユイ殿、カナタ殿」
「いえ、お一人では結界の外に出るのも大変でしょうから」
「俺はただの付き添いだけどさ」
そうして俺たち三人は森の入り口を目指していた――のだが。
「あ」、と声をあげ、ユイがその足を止める。
「? ユイ?」
「ユイ殿。どうかしたか?」
俺たちが声をかけると、ユイはどうも迷いながら何かの言葉を留めていたが、それから意を決したように言った。
「あのっ、シャルさん!」
「うん?」
「よ、良かったらこの先で……一緒にお風呂、入っていきませんか!」
「……え?」
ユイがその手で示すのは、森の中に立てかけられた看板。そこには『この先カティナの湯』と印されている。
俺は思わず「ああ」と納得した。
そうしてやってきたのは、先ほど看板に書かれていた『カティナの湯』。
そこは今までの温泉より少し小さめで、五~六人も入ればいっぱいになってしまいそうな露天風呂だ。森林のような濃い緑を色をしていて、なんだか健康によさそうな色だな、とか思ってしまう。
「ユ、ユイ殿。ここか?」
「はい。ここは筋肉のコリなどをほぐしてくれる『効能』があって、よく運動をした日なんかに入ると効果があるんですよ。シャルさんは鎧を着てますから、きっとお疲れかと思って……」
「気遣い感謝する。ほう……アルトメリアには多様な秘湯があると聞くが、こういうものだったのか。なかなか興味深いな」
シャルは膝をついてお湯に手を入れ、その温かさを体感しているようだった。
「ふむ、少し熱いくらいか。だが私は熱い方が好みだからちょうどいい」
「あ、あの、シャルさん。それじゃあ、入っていってもらえますか……?」
「ああ。せっかく里長にお誘いいただいたんだ。その歓迎には応えなければな」
「シャルさん……!」
ユイは嬉しそうに手を組み合わせ、それからタタッとシャルの元へ駆け寄る。
「それじゃあ脱衣をお手伝いしますね! あ、でも鎧ってどうやって脱ぐんでしょう?」
「あ、ああすまない。私が指示するから順番に手伝ってくれるか」
「は、はいっ」
「えーっと……お、俺も手伝った方がいいっすか?」
「ん、すまないなカナタ殿」
ということで、俺とユイは二人でシャルの鎧を脱がせにかかったわけだが、脱がせ方もわからなければそこそこの重量もあり、さすがにこんなことは初めてだったので、多少時間がかかってしまった。つーかこんなもんを平然と身に着けてるシャルがマジですげえ。
で、ようやく鎧も脱ぎ終え、シャルは身軽な肌着らしい姿になったわけだが――。
「シャルさん、そちらもお手伝いしますか?」
「い、いやいい! ここからは一人で問題ない」
「そうですか? では次はカナタのお手伝いをしますね」
「や、お、俺も大丈夫だよユイ!」
「遠慮しないでください。いつも一緒にしているんですから」
「え、えええ~!」
なぜか俺のときは断っても強引に脱がせにかかるユイ。さすがに乱暴な対応は出来ないので、こうなったらもう自然に任せる俺である。
そんな楽しげなユイに脱がされる恥ずかしシーンを、シャルはバッチリ見ておられた。恥ずかしすぎて死ぬ!
「ユ、ユイ殿、カナタ殿!? 何を!?」
「――はい、終わりましたよカナタ。それじゃあ私も……」
俺の服を脱がし終えると、ユイは自分の服も脱いであっという間に全裸に。ユイは相変わらず自然体だが、俺はさすがに自分の下半身だけは手で隠した!
「な、な、なななな!? 二人とも! 若い男女が異性の前でそう易々と裸になるものではない!」
「俺もそう思うよ……」
目を隠しながら大慌てでそう叫ぶシャルと、下を隠して恥をかきながら答える俺。ユイだけは首をかしげて不思議そうにしていた。
「でも、脱がないとお風呂に入れませんよ? それに、カナタとはいつもこうして一緒に入っていますから」
「な、なんだって!? というかカナタ殿も一緒に入るつもりなのか!? ふ、ふしだらではないか! よもやこのように純真無垢な少女に手を!」
「出してない出してないまだ出してないっす! いやまだじゃなくて出してない! つーかマジでアルトメリアってこうなんだよ! どうも男がいないからこうなったみたいで!」
詰め寄るシャルに必死の弁明をする俺。幸いシャルはすぐ理解してくれた。
「あ、ああ、そういうことなのか……すまない。つまり、これがユイ殿たちの文化ということか……」
「ええと……何を驚かれているのかよくわからないんですが、さぁ、シャルさんもご一緒に入りましょう」
「ええええ!? わ、私もか!? 一緒になのか!? というかやはりカナタ殿もか!?」
「もちろんです。アルトメリアのルールとして、親睦を深めるためにはまず同じ湯に浸かる……というものがあるんです。だから、きっと一緒に入ればシャルさんともっと仲良くなれるかな、と思ったんですが……」
「ユ、ユイ殿……そのために……私を……?」
「も、もしかして、外の方にはおかしな行為なのでしょうか? あの、ご迷惑だったらごめんなさい。嫌だったら言ってくださいね」
裸のまま少し寂しげに微笑むユイ。それはなんとも健気な姿であった。
そしてどうやらシャルもそんなユイに感化されたらしく、
「ぐっ……そうか、これがアルトメリアの流儀なのだな……。――わかった。であれば私も覚悟を決めて混浴をしよう!」
「シャルさん……」
「シャ、シャル? でも無理しなくてもいいんじゃ」
「ええい……女は度胸! だ、だがカナタ殿はあまり見ないでもらいたい!」
「う、ういっす!」
そうして俺は目を逸らしたまま先に入浴し、後ろでシャルが服を脱ぐ音を聞いてドキドキするはめになるのだった。
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