♯8 クラウストラの森
「なんか……すごいところだな……」
そんな俺のつぶやきを聞いて、俺を助けてくれたあの子――ユイと呼ばれていた可愛い子が隣で言った。
「此所は『クラウストラの森』と言います。私たち『アルトメリア』のエルフにとっては母なる神聖な場所で、風と木の精霊さまが守ってくださっているんですよ。本来、外の人は立ち入るも出来ないのですが……村に行くにはここが一番の近道なので、今回は特別ですね」
「そ、そうなんだ? えと、あ、あるとめりあ? えるふ、って……え? エルフ?」
「はい」
ファンタジー世界のゲームや本などでよく聞いた言葉に、俺は思わず立ち尽くしていた。その現実とは思えない言葉の存在が、しかし確かに現実として俺の前にいる。
女の子はその場に立ち止まり、スカートを手で軽くつまみ上げながら頭を下げる。
「申し遅れました。私、『ユインシェーラ・アルトメリア』と申します。前を歩いている妹は『アイリベーラ』。私たちのことは、どうぞお気軽にユイ、アイと呼んでください。宜しくお願いしますね。ええと、あなたの名前は……」
「あ、う、うんっ。こちらこそ。えと、俺は奏多。藤堂奏多です。俺のことも奏多って気軽に呼んでもらえれば!」
「わかりました、カナタ」
ニッコリと微笑むユイの表情に、思わずドキッとしてしまう俺。
改めて見ると……なんていうか、俺の世界じゃ見たこともないってくらいの美少女だ! もはやあのお姉さんに匹敵するほどだと思う!
銀色の髪はサラッサラで指通りが良さそうだし、長い髪を少しだけ束ねて後ろで結んでいる髪型もお嬢様っぽくて可愛い。肌も綺麗で触れればツルツルしているのは確実でつい手を伸ばしたくなってしまうし、ていうかさっき触ったときその通りだった! 瞳は吸い込まれそうに美しくて、小柄なのに大きな胸のギャップがまた凄まじい……!
ああ、やっぱりこの子エルフだわ。そんでここ異世界だわ。
だってこんな現実離れした美少女がいる世界なんて、異世界しかありえないだろ。
一方で、妹のアイはだけどユイとは髪や目の色も違うし、そこまで顔も似てないように思えた。可愛らしくも活発そうな性格がその元気さからわかる。
ただ、ユイはおそらく俺よりも年下だろうに、すごくしっかりした感じの子だなぁと思った。
そしてお互いに自己紹介を済ませた俺たちはまた森の中を歩き出す。
ユイは口元に指を添え、多少考えるように言った。
「カナタ……カナタ…………そのお名前は、この辺りではあまり聞かない響きですね。出身はどこの国なのですか?」
「ん? 日本だよ。あー、わかるかな? アイムジャパン」
「ジャパン…………? ――え? アスリエゥーラではなく……? ま、まさか……!」
驚いたように口に手を当てて立ち止まるユイ。
どうやらその話が聞こえていたのだろう。周りの大人たちも口々に「ジャパン!?」と動揺の反応をして立ち止まっててた。アイだけが何事かと首をかしげている。
「え? え? な、なにどうしたのユイ?」
わけがわからない俺が慌てて尋ねると、ユイはハッとして言った。
「ご、ごめんなさい、驚いてしまって。その……ジャパンというのは、じょ、冗談ではなく、本当に……ですか?」
「え? う、うん。もちろん。ユイにそんな嘘つく必要ないし……」
「そう、ですか……まだ、信じられません……。けれど、カナタはあの温泉に入っても無事で……それどころか、私のことまで助けてくれました……。きっと、すべて真実、なのですね……」
さらにざわついていく周囲。
いやいやどういうことだ? まだ意味がわからないぞ。
「ユイ? あの、どういう意味? よくわからないんだけど」
「あ、ごめんなさい。……実は、その、『ジャパン』という名の国は、こちらでは、古より伝わる“異世界”のことなんです」
「――え?」
――い、異世界?
――ジャパンが? 日本が? 俺の住んでる国が!? はえええええ!?
「異世界に行くことが出来るのは、古くよりこの神世界アスリエゥーラを守り、司る女神たちだけと云われています。そして、世界が闇に閉ざされし時、女神が異世界にて勇者を誘い、空よりこの地に舞い降りて、世界を救う、という伝説が残されているのです」
「女神が……勇者を……?」
「はい。ですから、とても驚きました。伝承の通りなら、女神が勇者を召喚してくれたことになるのです。そう……勇者カナタを」
「……え?」
耳を疑う。
なんだって?
誰が勇者だって?
俺が?
はは、なんだこの異世界転生展開。いや転生じゃなくて転移か? 召喚されちゃったかー。俺勇者として召喚されちゃったかー。神世界アスリエゥーラとやらに転移しちゃったかー。ぬははははは。
いやぁ俺の妄想もだいぶリアリティが出てきたなぁ。
…………。
「――ってえええええっ!? お、俺が勇者!? 女神に召喚された!? はあああぁ!?」
意味わからん意味わからん意味わからん!
俺はただの秘湯めぐりが趣味の高校生だぞ! 世界を救う勇者なんかじゃねぇって!
なぁそうだろブルブルちゃん! ああああそういやブルブルちゃんは!? 新聞配達バイトでようやくかったブルブルちゃんはぁぁぁ!? 俺マジで異世界に召喚されたってことなのかーーーー!?
「じゃ、じゃあなんだよ! あの秘湯好きなお姉さんが実は女神だったとでも!? いや確かに魔力がどうとか魔術がどうとか500年どうとか言ってたけど! あれ冗談じゃなかったの!?」
「女神さまに逢われたのですか? それでは、やはりカナタは私たちの世界を救うために遣わされた勇者さまなんです!」
「そうなのですかユイねえさま! こちらの方がゆーしゃさま! やっぱりゆーしゃさまなんですね! わーわーすごいです! アイのおもったとーりでした!」
「勇者カナタ。この世界に来てくださってありがとうございます! アルトメリア一同はあなた様を歓迎いたします!」
「わぁーっ!! これでアイたちも、み~んな外に出られるようになりますね! ゆーしゃさまゆーしゃさま~~~~!」
「え、え? うわぁっ!」
ぴょんぴょん飛んで喜ぶアイに手を引っ張られる俺。
周りの女性たちも「勇者さまよ!」「ああ、女神さまありがとう!」「伝承は本当だったんだわ!」「これで同士たちも救われる!」と、それぞれテンションも高く盛り上がっていた。
マジかよマジかよマジかよ!
なんかトントン話が進んでてやばくね!? 俺勇者じゃなくね-!?
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