第2話 悲劇~彼が残した謎のラストメッセージとは
一年前、その公園の前で悲劇は起こった。
彼は最近悩みを抱えていたようだった。その日電話がかかってきた。〝どうしていいかわからない、相談したいことがある〟と言われた。六時に待ち合わせをした。日の入り時間が早くなってきた九月初旬、夕方六時ですでにもう街灯を付けないと見通せない薄暗さだ。
少し遅れてきた私がそこに着くとパトカー、救急車に大勢人が集まって騒いでいた。何があったのか聞いてみるとひき逃げ事故だという。目撃者の話によると私との待ち合わせに公園をはさんだ一方通行の狭い道の反対側にいた被害者が渡ろうとしたときに右から来たスピードを出した車にはねられた。轢いた後いったんブレーキを掛けて一旦は止まったらしい。その間は一分あったかないか、車からは出てくる気配もなく行ってしまったそうだ。まさかと思いながら前の方に行くとまさに今、血を流している彼を救急車の中に運ぼうとしていた。彼が轢き逃げされたのだ。
“私の彼です“といって救急車に乗り込んだ。救急手当てを施して救急病院に着いて急いで手術を行ったが、出血がひどかったためまもなく死亡した。
後から目撃者の話で車がフェラーリだったことはわかったが、色までは薄暗くてはっきりしなかった。彼は右手の人差し指を突き出し親指と中指で携帯電話の両端を持って腕伸ばしていたそうだ。そして左手には私が歩く姿の写真を裏返しに握って倒れていたそうだ。
その逃げていった加害者を探すため友人、学友の田中祐一、同じアシスタント仲間で一番中の好い金田成雄に協力してもらいビラを作って雨の日も風の日も毎日、駅前で配った。
「金田さん、田中さん。彼から何か悩み事聞いていませんか。私、あの日相談を受けるはずだったのです」
金田さんは
「何も聞いていないな。あの日は仕事休みだったので彼とは会っていないから」
田中さんも
「ごめん。しばらく彼とは会っていないから」
「そう」
落胆した。彼は誰にも悩みを打ち明けずにあっけなく死んでしまった。
私はインターネット上の掲示板にも呼びかけた。しかし、ほとんど冷やかし半分の当てにならない情報ばかりだった。
警察の情報もあわせて三人の人物が浮上してきた。アシスタント同士でなにかと対立していた高沢勲、元恋人の江部勝明、将棋全国大会でいつも彼には負ける伊村則広。いずれもフェラーリを持っている。その上、人に貸したとか、修理に出しているとかで手元になくて見せてもらえないそうだ。
警察では限りなく黒に近い灰色の容疑者はいるが、状況証拠ばかりでなかなか物的証拠が見つからないらしい。そのため手間取って無情にもずいぶん月日は流れた。
私は彼が部屋に隠したと言っていた日記のことを思い出した。あのヒントが正しいのなら鍵のかかった引き出しの奥とかテレビ、天井の裏とかではないことはわかった。目の前に見えていながら見逃している場所。几帳面らしく本が本棚にきれいに並べられていた。その本の間か。また机上はノートパソコンとノートが何冊か積まれていた。 あと無造作に置かれていた束になっているキーホルダー。何冊かのノート(日記帳とは限らない、わざとノートに書いているかもしれない)の内の一冊などが狙いだ。
なぜあれだけ笑っていたほどの自信と余裕があったのか?あれれ??パソコンと無造作に置かれていた束のキーホルダー?があった!几帳面な彼が机上へ無造作に束のキーホルダーを置きっ放しするだろうか?
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