あの男が彼を・・・・
マックス主水
第1話 出会いは最悪
「あの男が彼を…」
思えばここまでたどりつくまでに一年は長い道のりだった。
私は中村圭子、彼より二つ年上の二十七才だ。司書の資格を取って図書館で働いている。特別美人でも可愛いというわけではない。長身でスタイルにはまぁまぁ自信はある・・かもしれない。性格はよく言えば大らか、悪くいうと大雑把。
推理小説、ミステリードラマは大好物。
私と付き合って一年の彼、工藤優作(二十五才)私と正反対の几帳面な性格‐時間厳守。計画好き。但し少々小心者。風景よりも人を撮るのが好きなアマチュアカメラマンである。プロカメラマン鹿野竜先生の数人いるアシスタントの一人。アマチュア写真コンテストで何度か優勝もしている。優秀のほうで目は掛けられていた。それで彼をライバル視して妬んでいるものもいた。その一人が高沢勲だ。めったにぼやかない彼が
『高沢勲は、アシスタント仲間とは溶け込もうとしない天邪鬼男だ』『アマチュア写真コンテストで優勝したことがある自分が気に入らないらしい。しゃべりかけてもいつも冷たくあしらわれ、意見もたびたび対立して喧嘩を仕掛けてくる』
となげいていたのを聞いたことがあった。
彼はカメラ以外に趣味を超えた将棋好き。町内の将棋センターに通っていた。
全国大会でも強くてライバルも数人いた。その中で一番のライバルは伊村則広。
短気性格なのかたまたま見に行ったセンター内での将棋の試合で彼に負けたとき机を蹴ってその場を去ったのを見た時はびっくりした。
彼と知り合ったのは三年前まで付き合っていたねっちりで嫉妬深い元彼、江部勝明と別れたばかりだった。出会いは最悪…行きつけのスナックだった。
私はやけ酒飲みしていた。
そんな私を説教し始めたのが隣にいた男だ。年下と知ってなお腹が立った。 それでも文句言っている私を家まで送ってくれた。二人は意外にも近所に住んでいた。翌日、送ってくれた礼も兼ねて連絡して逢ったのが付き合いの始まりだった。
いつもそれぞれの家の中間にある小さな公園をデートの待ち合わせにしていた。
何回目かのデートで彼が唐突に
「俺、圭子と出会った日からずっと毎日日記書いている」
照れて苦笑いしながらつぶやいた。嬉しかった。
「へぇ、読んでみたい」
「いくら圭子でもそれはだめだ」
私は冗談で言ったつもりが真剣な眼差しで断られた。
しばらく二人の間に沈黙が続いた。
何を思いついたのかいきなり大笑いし始め
「圭子は推理小説が好きだよな」
素直に頷くと
「今度、俺の部屋に来たとき一人になる時間を作ってあげるよ。その時に日記を探してもいいよ。見つけたら読んでもいい。まぁ見つけられたらのことだけど」
絶対に見つけられるはずないと自信で高言しているのがなぜか癪にさわって
「私、探し物得意だから、絶対見つけて読むからね」
彼は何も言わず笑っていた。
「ヒントはくれるでしょう」
「もちろん。ブラウン神父シリーズをよく読み直す事かな。枝はどこに隠す?」
「このシリーズ大好きよ。そんな大ヒントくれていいの。」
それでも彼は余裕の顔をしていてちょっと悔しかった。
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