俺ん家は駐輪場。

拓魚-たくうお-

俺ん家は駐輪場。

「眩しいな…。」


 つい、そう口に出したのは二年前の俺。

 会社から追い出された俺を助けてくれる人などおらず、そしてこんな俺が家庭を持っているはずもなく、貯金も一瞬で底をついた。いや、貯金なんてほとんどしてなかったっけか。

 そんなことは今ではどうだっていい。俺はホームレスになった。

 ガキの頃は、普通に大学行って、普通に二十歳で成人して、普通に彼女作って、結婚して、子どもができて。そんな人生を歩むんだって、当然のようにそう思っていた。

 今の俺から言わせれば、そんなの人生を舐めくさっている。

 と言いたいところだが、そんなこと小学生の鼻垂れに言ったところでどうにもならないことは解っている。


 行き場のない負の感情を心の中に押し込めながら、俺が行き着いた先は隣街の公園。

 最初は、最悪だった。

 周囲の目線が針のように俺を刺す。

 警察に見つかっては職質しょくしつをくらう。

 近所のクソガキ共にはゴミを投げられる。

 そして何より、朝の陽射ひざしが辛かった。

 眩しすぎると、なんというか、陽射しにすら、自然にすら馬鹿にされているように感じるのだ。

 クソガキならまだ人間、俺を馬鹿にしていた会社の同僚と同じ、そう考えればまだ耐えられるのだが。

 自然にまでそんな目を向けられては、みじめでしかたがない。

 耐えられなくなった俺は、あてもなくまた歩いた。

 多分このときの俺の心に最も大きくあったのは、【もっと暗い所に行きたい】という願望だったと思う。こんなにも人生どん底で真っ暗だというのに、至極おかしな願いである。

 しかしこの頃の俺にそんなことを考えている余裕はなく、当然のように、ただひたすらに暗さを求めて歩いた。

 そしてついたのが、駐輪場。

 地下にある、床も、壁も、天井もすべてコンクリートの、殺風景な駐輪場。

 広い割に人の出入りが少なく、隅の方にいる俺には、誰も気付きはしない。

 警察も来なければ、ゴミを投げる同僚もいない。

 その居心地の良さからもうここに来て二年も経つ。

 俺の人生がどうしようもないということはとうに悟った。

 俺は、多分もう残り少ない人生をここでゆっくりと過ごす。そう決めた。


 「ふぅ…。」


 気疲れしたのか、ため息が漏れる。

 いろいろと思い出しすぎてしまった。


 疲れたので俺はもう、眠ろうと思う。

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