予言書とは 王子殿下目線
中にはすでにローランドもいて、俺がユリアスを連れてきたのを
「王子
彼女が
よくよく読めば
「俺はこのままではヤバイのではないか?」
「ヤバくはないですよ。ちょっと彼女とイチャイチャするだけです……今のところは、ですけど」
俺の顔色が最悪なのをユリアスは
読み進めるに、この物語の王子はヒロインとぶつかり、偶然キスしたことからヒロインに興味を持つらしい。
出会いの後、裏庭の
しばし見つめ合った後、先日転びそうになったところを助けてもらいありがとうと顔を赤くしたヒロインに話しかけられ時間を忘れて語り合うらしい。
「俺はこんな目立つ所で、昼寝などしない」
「そこは私が直してもらいました。だって、地べたに
なんだか言い表せない
「なんの話をしているんです?」
ローランドが気になったようで聞いてきた。
そりゃそうだろ。
俺が……この国の王子であるこの俺がこんな
「これに、ローランドのことも書いてあるのか?」
「
「君もブラコンか」
俺は
「ローランドの話は?」
「一巻の後半です。まあ、お兄様は
「ローランドだけ助けようとしたのか?」
「……違いますわよ~」
ユリアス、目が泳いでいるぞ。
ローランドはキョトンとした顔をしている。
俺が手を出すと、ユリアスは鞄から十冊ほどの小説を出してきた。
俺は顔をしかめながら一巻のローランドが登場するページを見た。
〝温かな日差しの中、
だから私も足を浸すことにした。
冷たくて気持ちがいい。
だけど貴族はこんなことしないらしい。
分厚いドレスに包まれた足はさぞ暑いだろうに。
理解されないことが信じられない。
「
そこに、
白銀の
「えぇと、涼をとってます」
「涼を? ……
「庶民の間では普通です!」
そんな顔すら格好いいなんてなんなの!
「不快にさせたならすまなかった。俺は庶民のことに
彼は私に手を差し出した。
「だが、ここは貴族棟だ。噴水に入るのは貴族の間では非常識だよ、お
そう言って彼は
俺が、ローランドと主人公の出会いのシーンを読んでいると、ローランドが不思議そうにユリアスにたずねた。
「なんの話をしている?」
「お兄様、最近噴水に足を浸している女性を見かけませんでしたか?」
「ああ、いたな~その日は妙に
「……お兄様、顔は覚えてますか?」
ローランドは少し考えてからユリアスに
「顔は覚えてないな。髪は
「忘れてしまってかまいません」
「関わらない方がいいってことか」
俺は手にした小説を持つ手に力が入りすぎ、開いているページにシワが寄っていることにも気にせず握り締めながら思わず
「なぜ、教えてくれなかったんだ」
それを聞いたユリアスは悪びれるわけでもなく
「
なんて質が悪い返しなんだ。
「この小説の中で王子殿下と
どうしてこんなことに。
ラモールと
勢い余って倒れ込み、危うく口と口がぶつかりそうになったが腹筋に力を込め必死にそれを回避した。
その後、瞳をキラキラさせながら、ごめんなさいと言った彼女を見て背中がゾワリとし、後ろから
俺は『気にするな』とだけ
何か得体の知れない不安が立ち上る。
「この予言書は
「マチルダさんです」
俺は耳を疑った。
「マチルダって俺の
「はい」
俺は自分の乳母の顔を思い出していた。
赤茶色の髪に同じ色の瞳の
「うわ~何やらせてるんだ! マチルダはバンシーの血を
「バンシーとは
それだけじゃない! まさか知らないで書かせているのか?
「バンシーは予言もするんだ。その力がこの小説をリアルな予言書のようにして、運命を動かしているかもしれないというのに……」
バンシーって妖精は予言をし、その予言を現実のものとする力があると聞く。
そんなマチルダの書く作品にどれほどの運命を動かす力があるのかなんて、
昔、マチルダに『悪戯ばかりしているとよくないことが起こりますよ!』と言われた後、転んで
俺があの時苦しんだのはマチルダのせいだと今でも思っている。こじつけかもしれないが、俺はそう思っている。
それなのに、そんな俺の説明をユリアスは聞いていないようで呟いた。
「だからマチルダさんは、王子殿下と同い年の
何が羨ましいのか解らん。
いや、今はそんなこと関係ない。
「マチルダさんの息子も美形で働き者ですもんね」
「まさか! ユリアスはマチルダの息子のマイガーに惚れてるのか?」
「えっ?」
ローランドの顔色が一気に悪くなった。
そんなローランドに気づくことなくユリアスは満面の笑みを作った。
「そうですわね。マイガーさんは私がデザインをしている下町のお店で働いてくださっているのですが、顔がいいので下町のお嬢さん達は彼目当てに私のお店に通いお金を落としていくんですのよ! その点においては言うことなしに
なぜだろう。
見ちゃいけないものを見た気がする。
急いで視線をそらした俺は悪くないと思う。
「とにかくマチルダにこれを書くのを今すぐやめさせてほしい」
「……お断りさせていただきますわ」
「なぜ?」
「絶賛売れ筋ナンバーワンの作品だからです!」
「金か?」
「私にとっては、お金が全てですので」
ああ、もうダメだ。
彼女の気持ちを変えるなんてできる気がしない。
いや、待てよ…………。
「俺を圏外にするにはいくら出せばいい」
「……えっ?」
彼女の瞳がキラキラした気がした。
なんだ、その
「でも……売り上げ
彼女は本当に頭がよくて困る。
彼女の頭の中でいろいろな計算がつぶさに行われたのが今のやりとりだけで解る。
「だが、俺をフッてラモールとくっつく方が権力に左右されない主人公として共感が持てるんじゃないか?」
「……王子殿下、これを書いているのはマチルダさんです」
俺は机に
マチルダは俺の血の
悪戯してはよくグーで
いや、今その話は関係ない。
マチルダが作者ということはこの小説に出てくる王子は俺だ。
そうなると息子を幸せにしたいみたいな考えから物語を進めている可能性だってあるってことだ。
「まあ、王子殿下が当て馬になりたがっていたとだけマチルダさんに伝えておきます」
「……助かる」
俺にはこの
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