ローランドの妹 王子殿下目線

 ひるに最適なかげ。そこは俺のお気に入りの場所。

 色とりどりの薔薇の裏側に真っ白な薔薇の花がみだれている。

 あしもとまでかくれるほどに葉がしげっていて、ちょっとやそっとじゃバレない昼寝に適した最高のいやしの場所に彼女はとつぜん現れた。

 シルバーブルーのストレートのかみをハーフアップにした美しい女性。

 ひとみの色は灰色で大きく、れいに上向きにされたまつふちられている。

 友人であるローランドの妹だと気がつくまでに数秒を要した。

 彼女は俺を無視してどうを薔薇の木にすようにセットしていた。

 記録用魔道具だとわかる。

 池を記録するのかと最初は思った。

 彼女は俺にシーっと人差し指を口に当ててだまるようにうながす。

 まあ、黙るが野鳥でも観察するつもりか?

 ぐに彼女の記録したかったものが、これまた俺の友人のラモールとその彼女らしき女性だと解りおどろいた。

「あれはこうしやくのラモールだな」

「はい。私のこんやくしやさまです」

 いつの間にかラモールがローランドの妹と婚約していた事実に驚いた。

 俺は友人ではあるがラモールが苦手だ。

 頭が悪すぎて会話にならない時があるからだ。

 ローランドは頭がよすぎてこわい時があるが、ローランドの方が身になる話ができる。

 そんな頭のいいローランドが、ラモールなんかを大事な妹の婚約者にするなんて鹿じゃないだろうか? と心配した。

 しかも、記録している光景を見ればうわされているのは明白だった。

 それなのに彼女はいたって冷静で、ラモールがいなくなると無礼をびてきた。

 常識もちゃんとあるようだ。

 俺に対してびも売らない。

 さらには本当にうっかりといった感じに舌打ちをする。

 舌打ちをしてしまった時の彼女の驚いた顔は、なんだかわいかった。

 綺麗な女性なのに可愛さまで持っているなんてローランドが大事にするのもうなずける。

 彼女との会話を続けるために二人の記録をっていた理由を聞けば予想外なことを言った。

 未来が解ると。……で、予言書と言って出してきたのは見慣れない題名のしよみん向けの小説だった。

 ふざけているのかと思ったが、いいからさっきの場面だけでも読めと言われて目を通すと、確かに先ほどと同じような場面が描かれていた。

 これが本当に予言書だというのか?

 彼女は信じなくてもいいと言うが一応信じることにした。

 それなのに彼女は、俺を自分の人生において重要な人物ではないと言いはなった。

 よくよく聞けば、俺は雲の上の存在だから実害がないと言う。

 その話を聞いて自分が彼女の人生に必要ではないと言われたような気がしてしように彼女に関わりたくなった。

 だから、無理やり友人になる約束を取りつけたのだ。

 彼女が損得で友人を選ぶなら、実害よりも得のある存在だと思わせればいいわけだ。



 彼女の兄であるローランドは、少しくせのある白銀のちようはつに灰色の瞳がぎんぶち眼鏡の中に隠れた知的な印象の男だ。

 性格は神経質で腹黒、『利益』という言葉が好きで妹をできあいしている俺の学友にして親友と言っていい。

 学園内に設置された王子専用のしつしつで仕事を手伝わせていたローランドに彼女と友人になったことを話してみた。

「あの子と友人に?」

「お前の妹はおもしろいな」

「そうでしょうか? 面白いのではなくあの子は美しくそうめいなのです」

 ローランドはゆっくりと眼鏡の鼻当て部分を中指でげ、めつに見せない満面のみを作った。

「まさか、ラモールと婚約しているとはな」

「…………あの子は頭がよすぎるんですよ」

 ローランドは手にした書類をにぎつぶしそうなほど力を込め、さっきまでの笑顔を消してプルプルとふるえながらうなるように言った。

「ラモールの家はの財産目当てにあの子との婚約話を持ってきたんです。僕も父も大反対しました。けれどあの子はラモール家のしやくがあれば外交をしやすくなると言い出して……」

 ローランドは泣くんじゃないかと心配になるほどくやしそうにまゆを寄せた。

「利益が出るならこの婚約を受けるとあの子が言い出した時は心臓が潰れるかと思うほどショックでした」

 彼女の顔がいつしゆんかんだ。

 冷たく見られそうな美しい顔に似合わないヘニャリと気のけた彼女の顔だ。

「ラモールに何か問題があれば直ぐさまこの婚約をさせるのに……」

「ああ、だから記録していたのか」

「はぁ?」

 俺はローランドに池のあぜにある薔薇のいけがきで、彼女がラモールの浮気現場を記録していたことを話した。

 ローランドの顔色はこの世の終わりと言いたげなほどに真っ青だ。

 妹が傷ついたと思ったのだろう。

「い、妹はどんな様子でしたか?」

「ああ……なんていうか…………」

 わるだくみをしているような顔をしていた、なんて言ったらローランドはどんな顔をするだろうか?

「元気そうだったぞ」

 俺は、なやみ考えた末にいろいろ飲み込んでそう声に出した。

「……殿でん、僕は……ラモールを殺そうと思います」

 妹を溺愛しているローランドならその結論にいたるのはごく当然であると思ったが、友人が事件を起こすのは俺の本意ではない。

「待て待て、お前の妹はラモールの思い通りにならないように材料を集めていると言っていた。だからお前も妹の思う通りにさせてやれ! 妹にきらわれるのは本意ではないだろう?」

 ローランドは頭をかかえてうずくまるとさけんだ。

「僕は妹の幸せを一番に考えているのに~」

 たびたび妹のまんをするローランドがこんなに取り乱すのをはじめて見た。

 知ってはいたが、それだけ妹が大切なのだろう。

「ローランドの妹、美人な上に可愛いとこもあるもんな」

「……手を出したら殿下であろうとようしやはしません」

「ラモールには婚約まで許したのにか?」

 ローランドは悔しそうに叫んだ。

「あの子がよめにいくなら我が家の役に立つ家がいいと言ったから仕方がなかっただけで、元より婚約など許すつもりは……本音を言わせてもらえるなら嫁になど出したくない」

 ローランドのシスコンぶりに思わず笑ってしまったが仕方ないと思ったのは言うまでもない。

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