雲の足音

@asaihaka

行方

「電格化っていうのをやっても、おじいちゃんには会えないからね」

 おばあちゃんはそう言った。

 おばあちゃんは5分で灰になった。

 お坊さんという人を初めて見た。

 聞いたこともない歌を歌い、おばあちゃんに新しい名前をつけて、お金を持っていなくなった。

 そのお坊さんの話によると、これからおばあちゃんは天国のちょっと前で修行して、そして仏様の弟子になって、仏様になるためにまた修行するんだそうだ。

 死んでもまだそんなにがんばらなきゃいけないのか。

 おばあちゃんはそのことを知ってたのかな。

 わたしなら、それを知ってたら絶対に電格化を選ぶけど。

 

 おばあちゃんだった灰は海に撒かれた。

 昔のアニメやドラマで見るようなお墓は、お金持ちか田舎の人しか持っていない。

 ほとんど水没するか、更地にされて建物が建っている。

 

 電格化すればかかる医療費が少ない。


 お母さんのときはお坊さんは居なかった。

 お母さんは仕事先で水にのまれて死んだけど、電格化を希望していたし、脳のダメージも少なかったのでわりとすぐ帰ってきた。

 普段と変わらないお母さんだった。

 1ヶ月くらい記憶がごちゃっとしてたけど、すぐに良くなった。

 お母さんは基本的にホロで家中どこにでも現れる。触れないけど、こちらからVにログインして会えば、触った感触はお互いわかる。でも、正直そんなに触ることもないのであんまり向こうでは会わない。

 唯一困ってるのがごはん。ごはんはお母さんが作ったのを食べたくなる。お母さんとリンクできるロボットを買えば作ってもらえるのだけど、引くほど高いから話題にもできない。だから私か、お父さんかどっちかが作る。

 お兄ちゃんは『アクアノーツ』の大学に行ってるので、ほぼ会えないし、仲が悪くも良くもなかったので、連絡もあまり取ってない。好きだった漫画家の新作が出たらちょっとメッセージを送るくらい。


ある日帰ると、お父さんがいなかった。しばらくして、橋から飛び降りたと警察から連絡があった。

その日はお父さんの定期バックアップの日だった。

お父さんはお母さんとVでずっと一緒にいたすぎて、死んでしまった。

翌週、照れくさそうに謝ってくるお父さんがVの中に居た。

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