イエロードリーム

@kiriekirei

第1章 たった一つの

 毎日が同じことの繰り返しだ。朝起き、朝食を食べ、大学に行き、授業を受け、学校から帰り、夕食を食べ、寝る。僕は何をして生きているのだろう。

 ーー学校に行きたくない

 これだけをいつも考えていた。どうしていきたくないか。理由を聞かれてもk待ってしまう。

 人数は少ないが仲のいい友達はいるし、別に仲の悪い人がいるわけでもない。授業は楽しかった……はずだった。でも最近なんだかおもしろくない。どういうわけか身が入らないのだ。大学では語学専攻で、将来は留学も考えている。勉強もしなければいけないのだ。 

 半ば自分のアイデンティティになりつつあった勉強の意欲がなくなってしまったからだろうか、まるで毎日が単調で、授業も退屈で、毎日が平凡だった。

 今までだったら楽しいと思えることですら、楽しいとも思えない。季節は12月。好きなアーティストのライブがあったり、友達とパーティーをしたりと楽しい予定はあるのだ。でも最近はそれすらも面倒に感じられてしまう。友達と顔を合わせて話をするのも今は面倒だった。暇があれば寝る。半ば過眠症とも思われるほど僕は寝て過ごしていた。


 そんな僕にもささやかな楽しみがあった。

 寝て、そして夢を見ること。

 見るときも見ない時もある。覚えていても覚えていなくてもその瞬間は幸せだった。冒険をしたこともあったし、好きだった人と遊んだこともあった。もちろん怖い夢を見たこともあった。ごくたまにだったが、夢を操ることができる、いわゆる明晰夢を見たこともあった。

 永遠に続くことはないが、その短い時間が最近の僕の唯一の楽しみであった。

 ……われながらなんてむなしい話だと思ってしまう。ずっと楽しい夢の中にいたい、そんな努力をする暇があったら、もっと現実を充実させる努力をすべきである。

 友達と毎週のように遊びに行く人もいる、恋人がいる人もいる、スポーツに打ち込む人もいる、現実ではないが好きなゲームに何時間も費やす人もいる。

 なんであれ、何かに打ち込んでいる人というのはそれだけで輝いて見えるのだ。それに比べて僕の夢を見ることにはまっている、というのはどうだろうか。現実から逃避しているようにしか思えない。

 最近は睡眠欲と食欲の生理的な欲求以外の欲求がなくなってきたようだ。以前だったら、友達と多くの時間を過ごし、彼女を作る努力をし、勉強にも打ち込むことができた。でも今は、すべてがどうでもいい。なにも新しいものは欲しくない。


 僕自身、このままの状態が良いと思っているわけではない。今は重たい体を引きずって何とか大学には行っているものの、そのうち不登校になってしまうかもしれない。留学に行きたいと思うなら以前のように勉強に励まなくてはならない。

 学生相談室。

 その存在を知った僕は、ここにかけてみるしかないと思った。普段あまり他人に自分の悩みを話すことがない僕にとって、最後の砦だった。

 12月のある日、僕は思い切って相談室の扉を開けた。今思えば、それが僕の人生を変えたのかもしれない。

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