第5話

ぎしり、と板の鳴る音がする。

その瞬間だった。段蔵が外へと飛び出す。続いて金属同士が激しくぶつかり合う音が響いた。

「……っ」

捨は梁の上で更に身を縮こませる。自分程度が出たところでどうにもならないことは分かっていた。仕方がないのだ。段蔵に何もないように、と祈りながら待つ。少しすると金属音が鳴り止んだ。

ぎしり、と再び床板の鳴る音がした。

「だんぞー……?」

ぽろりと口から声が漏れる。それを理解した瞬間、捨は慌てて口に手を当てた。喋るなと言われていたことをけして忘れたわけではない、ただ捨は不安だったがために声を漏らしてしまったのだ。だが、その不安は更に煽られる。

「誰ぞ、いるのか?」

帰って来た声は先程の見知らぬ男の声だった。

途端にぶわり、と捨の背に悪寒が走り抜ける。この声は段蔵ではない。では、段蔵は一体どうなったのか。金属音が無くなったことから恐らく、という予想が浮かばないわけではないが、それでも思い浮かべた想像が合っているなど捨は信じたくなかった。

「誰ぞ……?」

男が捨のいる居間へと入ってきた。捨はほんの僅かに顔を覗かせ男を見る。

身形の良さそうな若い武士だった。貴人のようにも見える。

だが、捨は貴人の様でも武士が恐ろしいことを知っている。戦が近付けば無理矢理蓄えていた米を持っていく。時折出た、野伏は子供だろうが斬る。戦が起きれば領地の末端の村など酷いことになる。厭われてきた捨とて、村にいた頃、そのくらいのことは耳にして来た。武士はそんな恐怖の対象だったのだ。

きゅっと唇を噛み締め、出来るだけ身を縮める。恐怖心から汗が吹き出した。なるべく何も見ないように、動かないように、と目を固く瞑り耐える。

その時だった。

「そこか」

空気を斬る音が捨の耳の真横で鳴った。

「ひっ……!?!」

驚き飛び上がると汗によりつるりと滑った。

捨は自分の身体が浮かぶのを感じ、次に来るであろう衝撃に目を瞑り身を丸め備える。

だが、それとは裏腹に少しばかり固いものに包まれる感触が来た。

自分は死んでしまったのだろうか、と捨は目を開く。すると、そこにあったのは先程の見知らぬ男の顔だった。

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