第3話

『金眼』

それは人ならざる者との混血の証。広くは『鬼子』と呼ばれている。

この瞳を持つ者は人知を離れた膂力と回復力、奇術をを行使すると言われている。

しかし、それ故に恐れられ、忌み嫌われる。また、金眼の子は力に身体が耐えきれず神の子の内に大半が死ぬ。もしくは腹から出た異形の赤子に恐怖した親に殺されることも多い。

また、その能力の高さから人買いには高値で売買され、生きながら薬等で廃人同然の使い勝手の良い人形として扱われることもあるという。

それ故に金眼持ちの価値は高い。

この捨という幼児もまた、この金眼持ちであった。更に珍しいことに両の眼共に金である。両眼共に金眼であるのは、金眼持ちの中でも一握りだ。そうした子は育ちづらいが、片眼だけの金眼持ちよりも遥かに高い能力を持つと言われている。

段蔵は頭の中で考えを巡らす。間違いなく捨は己が求めていた存在だ。些か性格は求めていた者とは違うが、両眼共に金眼の子を手に入れられるのはそう有ることではない。性格はいずれ落ち着くことを踏まえれば然したる問題ではないだろう。ならば。ならばこの幼児を使わない手は無い。段蔵はにやり、と笑みを浮かべた。

「あい、わかった。聞きてぇ事はこれで終いだ。さ、飯にすんぞ」

「めしー?」

段蔵は草履を脱ぐと捨を小脇に抱え縁側に上がった。

「だんぞー、くるしー!」

「お前に歩幅合わせてたら俺の腰が死ぬからな。我慢しろ」

「えー……」

ブスくれると、捨はだらりと脱力した。力無くぷらぷらと揺れる手足。細く骨張っており、腹も出ている。眠っている間は重湯を多少流し込んでいたが、この分では今日の食事も捨は重湯にしなければ胃が驚いてしまい戻すだろう。それに場合によっては死ぬ。それは避けなければならない。

目的を成すまでは、捨を死なせるわけにはいかないのだから。


※※※


「なぁ、だんぞー!」

「何だ?」

「だんぞーはおさむらいさまなのか?」

捨は空になった椀を置くと段蔵に問い掛けた。

「だって、ひゃくしょーにしてはたべるものいっぱいだもの!すて、うちでこんなにたべたことないぞ!」

そういうと捨は小首を傾げた。

「んん?でも、だんぞー、よくきてたおさむらいさまみたいにきれーなきもの、きてないな?んん?んー……」

「まぁ、幾らか面倒だがそれなりに食える仕事はしてるってことァ言えるな」

「やくしか?」

「ちげェよ」

段蔵は椀の汁物を啜る。それから捨の空いた椀に重湯を注いだ。

「とにもかくにもお前は食え。食ってマシな見た目になりゃ教えてやんよ」

目の前に置かれたおかわりに捨は眼を瞬かせ、それから大きく頷く。

その様子をみた段蔵は眼を細めたのだった。

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