第2話

射し込む陽の光に幼児は目を開けた。

辺りを見渡すと小綺麗であることが分かる。

ここは黄泉の国だろうか、と小首を傾げると幼児は立ち上がった。所々痛むが問題はない。ふらつきながら戸の所まで辿り着くとそっと、開ける。

「……ぁ」

その先には竹林が広がっていた。青々とした竹の葉がさらさらと音を立て風に鳴る。

「お、気ぃ付いたか」

何処からかともなく低い声が響く。それは意識が無くなる直前に聞いたものと同じだった。キョロキョロと辺りを見渡すと、上からこっちだ、と再び声がした。

「……?」

幼児は目を瞬かせ上を見上げる。すると何かが屋根から地に降り立った。あまりのことにあんぐりと口を開けると屋根から地に降りた、片目の初老の男は、くつくつと笑う。

「そんなに口開けてっと羽虫が入るぞ」

すると、幼児は慌てて両の手で口を押さえ、男を不思議そうに見上げる。

「なんだァ?俺がなんで彼処から降りてきたのかってか?そりゃ、昼寝していただけに決まってんだろ」

幼児は晴れ渡る空を見、それから成る程、というように大きく頷く。そんな子供の様子に男は頭を掻いた。

「こりゃぁまた……胆の座ったやつというか、抜けたやつというか……」

「……?」

男の溜め息に幼児はきょとんと丸い目を見開く。その様子に苦笑いを溢すと、男はしゃがみこみ、幼児と同じ目線になった。

「お前、名は?」

「……すて」

「捨……?」

「ん」

こくり、と幼児、捨は頷く。男の何か考えるように目を閉じた。それ顎を撫で上げ口を開いた。

「俺は段蔵。加藤段蔵だ」

「だんぞー?」

「おうおう、随分思ってたより元気みてェだな」

「げんきー!」

「わかったわかった。そんで捨、自分の歳は分かるか?」

「しらなーい!」


きゃらきゃらと明るい声で捨は答える。その声に暗さは微塵もない。明るすぎるほどだ。いっそここまで明るいと寧ろ憐れみすら感じられる。『捨』という名から分かるようにあの近隣の村に捨てられた子であろう。今の時勢可笑しな話ではない。それに、この幼児は恐らく。


「捨、もう一つ聞きてぇんだが、その目の色は生まれつきか?」


段蔵は片方だけの眼で捨を凝視する。


「うん!すてはむかしからおめめが変だから『おにご』っておっかあ、いってた!」


捨の返答にやはり、と段蔵は頷いた。段蔵を見上げる丸い瞳は人と思えぬ金の色を持っていた。

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