戦国異聞鳶

浅黄

序章

第1話

一人の幼児が木の根元に背を預け座っていた。周りに大人の姿もない。力も無く、ただただその身を木に寄りかからせ、ぼんやりと分厚い雲に覆われた空を見上げていた。

幼児がこの森に連れてこられたのは一週間前のことだ。理由は簡単。口減らしの為だ。特に幼児は何処からか貰われてきた子であったため、真っ先に切り捨てられたのだ。

しかし、幼児はそれを恨むことはなかった。まだ数えで神の子を出ない歳だが、なんとなく世の中のことや自分が疎まれていることは理解していたからだ。故に仕方ない、と。

ぽつり、と空からの雫が落ちてくる。続けてひとつ、ふたつ、と冷たいそれは幼児へと降り注ぐ。その雫は容赦なく体温を奪って行く。体力も何もない幼児をも奪うかの様に。

「……」

出したはずの声は音にすらならない。幼児はゆっくりと瞳を閉じる。死を受け入れるために。


「……おい」


何処からか、しゃがれた声が響く。幼児はその声に答えるようにうっすらと瞳を開ける。視線の先には傘を指した、片方の目を布で覆い隠した初老の男がいた。男は幼児の元に来るとその顔をじっと見つめる。

「……ほぉ、両方とも『金』か」

小さく呟くと男は幼児をつまみ上げる。そして言った。

「来い、小僧。その命此処で無くすにはちと惜しい」



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