第25話 『七夕物語』
やあ。
こんにちは。
今日も来てしまったよ。
私だ。
ダイゴの父親だ。
え?
今日はまたダイゴがどこかへ出かけたのかって。
はっは。
いやいや。
今日はね。
私の意志で来させてもらったよ。
ああそうだ。
どうしても、君のことを思い出してしまってね。
ん?
なんだい?
その嫌そうな顔は。
その、蔑んだ目は!
全く君は本当に失礼な奴だな。
その無礼な顔――
やっぱり素晴らしいじゃないか!
もっと見てくれたまえ!
ゴミクズのようなこの私を!
そのゴキブリを見るような目で!
たっぷり見てくれたまえ!
……すまない。
ついつい、いつもの癖が。
しかし思った通り、これはSの才能がありそうだ。
この私としたことが、つい興奮してズボンを下ろしてしまったよ……。
この人、やはり伝説のSの血を継ぐ者では――。
……ああ、すまない。
こちらの話だ。
それじゃ、早速始めようか。
昔々、天空に彦星と織姫という若いカップルがいたんだ。
二人はとても愛し合っていてね。
お互い、天の仕事を放っぽいて、いつも隠れて逢引きしていたんだ。
すると、それを見ていた天帝様がお怒りになってね。
二人を引き離してしまったんだ。
二人はそれはそれは悲しんでしまってね。
いよいよ仕事が手につかない。
それを見かねた天帝様は、年に一度だけ、七夕の日だけ二人を合わせてあげることにしたんだ。
私はね。
この話を聞いたとき、思ったんだ。
天帝様は――
絶対素晴らしい女王様になれるってね!
だってそうだろう!
一年もの間、焦らされる者の気分を考えてみたまえ!
焦らしプレイというのはSMの基本だ。
だが、普通は5分とか10分とか、長くても一時間くらいだ。
それが天帝様と来たら――
一年も待たせるんだよ!
なんというSだ!
最低で、最高の女王様じゃないか!
それはもうたまらないよ!
もう2度と会えないわけじゃない、というのがポイント高いよ!
……ごほん。
ああ、すまない。
またぞろ、興奮してしまったよ。
とにかく、織姫と彦星はそうやって逢瀬を重ねて、永く永く愛し合ったそうだよ。
本当に、めでたしめでたしだったよう――ん?
なんだね、君たちは?
私になにか用かね?
な、なんだ。
やめたまえ。
なにをするんだ。
無礼者!
話があるなら先に名乗りなさい!
それが大人というものでしょうが!
え?
話は署で聞く?
さっき、この店の店員から露出魔がいると通報があった?
はっは。
なるほどなるほど。
そういうことですか。
私としたことが。
話に夢中で、ついつい、ズボンをあげるのを忘れてしまっていたよ。
やあやあ、悪いね。
それじゃあ、私は用事が出来たのでこの辺で失礼するよ。
え?
大丈夫なのかって?
ああ、心配はいらないよ。
このくらい、いつものことだからね。
それじゃ、ダイゴには君の方からよろしく伝えておいてくれたまえ。
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