第24話 『3匹の子豚』


 わっり。

 今日もちっと遅れちまった。


 いやーさっきよー。

 道路の端っこで体育座りしてるガキがいてよ。

 じっと空を見上げてるから迷子かなにかかと思って声かけたのよ。


 そしたらそいつ、黙ったまんまなわけ。

 こりゃいよいよおかしいと思ってよ。

 横に座って、話を聞こうと思ったんだよ。


 でもよ。

 何を聞いても口を聞かねえの。

 こりゃ無理に聞き出すより黙ってた方がいいと思ってよ。


 俺はガキが喋り出すの待ってたの。

 んで、一緒になって空を眺めたわけよ。


 そしたら――



 歩道橋から女のパンチラが見えたよ。



 思わずしばらくそこで一緒に眺めてたら、遅くなっちまった。

 わっり。

 

 んじゃ、早速始めんべ。


 すんげー昔のことよ。

 あるところに、3匹の子豚が住んでたの。

 こいつらは家を出て、それぞれ家を作るわけよ。

 

 長男は面倒くさがりで藁の家を作るの。

 次男もよ、長男よりマシだけど、手を抜いた木の家を作るわけ。


 んで、この二人、そんなヤワな家を作ったせいで狼に食われちまうのよ。


 で、3男はというとよ。

 こいつは勤勉で賢い奴なわけ。

 丈夫で頑丈なレンガの家を作るのよ。


 そしてそのおかげで、狼に食われずに済むわけ。


 ……俺ぁこの話聞いてよ。

 ある奴らのことを思い出したのよ。


 それが「タチバナ3兄弟」よ。

 俺のツレで、地元じゃ有名なヤンキーなんだけどよ。


 このタチバナ兄弟。

 ツラはいいんだけど、女にはからっきしでよ。

 とにかく頭が悪すぎて、全然モテねえんだ。


 でよ。

 ある日、3人は俺に相談してきたわけ。


「俺たち、同時に一人の女を好きになっちまった」


 ってよ。


 3人が惚れちまったその女、俺のクラスの奴だったからよ。

 段取りつけてやったワケ。


 3人、一人づつ、デートしてやってくんねーかって。

 その中で気に入った奴がいたら、付き合ってやってくれってよ。

 したら、その女もちょうど彼氏いなかったからよ、とりあえずOKしてくれたぜ。


 この女も中々のヤンキーでよ。

 好みが「ヤンチャな男」だったわけ。

 俺ぁ平等になるように、その情報だけを3人に伝えてたのよ。


 で、まずは長男だよ。

 どういうファッションで来るのか、俺ぁ待ち合わせ場所を遠くから見守ってたんだけどよ。

 

 ……そしたらよ。

 俺ぁ、度肝を抜かれたぜ。

 なんとタチバナ長男――




 半袖半ズボンで来やがったの。




 ねーよ!

 ねーだろ!


 どこの高校生がデートに半ズボン履いてくんだよ!

 ヤンチャってそういう意味じゃねーよ!

 いくらなんでもバカ過ぎんだろ!


 って思ったんだけどよ。

 時すでに遅し、よ。


 案の定、撃沈だよ。


 んで、次の日。

 次男だよ。

 俺ぁ助言してやろうとも思ったけど、それじゃ長男と平等じゃねえと思ってよ。


 何も言わずに待ち合わせ場所で待ってたのよ。

 そしたら次男の野郎――




 虫取り網と虫かご持って来たのよ。




 だからそういうことじゃねーんだよ!

 たしかにヤンチャな小学生のようなナリだけどよ!


 当然、次男もその場でフラれてたよ。

 

 さらに次の日。

 いよいよ3男だよ。


 俺ぁ、きっとこいつならやってくれると思ったぜ。

 3匹の子豚でもよ、3男が一番かしけーしな。

 祈るような気持ちで待ち合わせ場所に行ったよ。


 そしたらよ。

 3男は半ズボンは履いてなかったのよ。


 俺ぁ心底ほっとしたぜ。

 やっぱりこいつは上の二人より賢かったってよ。


 ただ、こいつもちっと妙な格好してんのよ。

 

 なんかオレンジ色の胴着を着てよ。

 背中には「亀」の文字が入ってんの。


 よく見るとほっぺに傷のメイクを施してよ。

 で、おもむろにこう叫んだのよ。




「ろうがふうふうけん!」




 馬鹿野郎!

 そりゃ「ヤンチャな男」じゃなくて「ヤムチャな男」だろうが!

 おめー、ダントツで一番アホじゃねーか!


 俺ぁ、なぜか自然と涙が出てたよ。

 ありゃ、一体なんの涙だったんだろうな。


 つーわけで、こっちの3兄弟は全員撃沈してたぜ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る