第26話 『白雪姫』



 ……なあ、どうしてこの世から戦争は無くならないんだろうな。



 ああ、わり。

 いきなり重い話をしちまったな。


 でもよ、俺ぁ時々思うんだよ。

 同じ人間同士、毎日毎日争ってよ。

 一体、何が楽しいんだよって。


 お互いがお互いのことを思いやる。

 互いの意見を尊重し合う。


 どうしてたったこれだけのことが出来ねえんだよ。

 人類ってのは本当に愚かだぜ。


 そもそもよ。

 俺ぁ、別に「どっちも美味しい」でいいと思うんだよ。



 「きのこ」も「たけのこ」もよ。



 ほんと、あいつらはいつまで争いを続けりゃ気が済むんだよ。

 俺ぁもう醜く争う姿を見たくねえよ。


 ……ま、一番うめえのは「木こりの切り株」なんだけどよ。


 わり。

 こんなこと、ここで愚痴ってもしょうがねえか。 

 んじゃ、今日も始めんべ。


 すげー昔の話よ。

 ある森の中に白雪姫っつー超美人のねーちゃんが住んでたんだってよ。

 んで、その近くの城にはよ、自分を美人だと思ってるお妃のオバハンが住んでたの。


 そのオバハンはよ、とにかく自意識過剰でよ。

 毎日魔法の鏡に向かって「この世で一番綺麗なのはだあれ?」とか聞いてたの。

 で、鏡はその度に「それはお妃様です」って答えてたのよ。


 だけど、ある日よ。

 鏡はこう答えたのよ。


「世界で一番綺麗なのは森に住む白雪姫です」


 ってよ。

 当然、オバハンはぶちギレよ。

 

 いや、俺ぁ、この鏡、すげーいい根性してると思うぜ。

 いくらホントのことでもよ、言っていいことと悪いことがあるべ。


 実は俺も昔よ、似たようなことがあったんだよ。

 ある日、ユミがベロベロに酔っ払って帰って来たのよ。

 んでよ、俺にこう迫って来るわけ。


「ね、あたしと新垣結衣、どっちが美人?」


 ってよ。

 

 ……いやいや。

 言いたかねえ。

 俺だって言いたかねえが、そんなもん――


 

 新垣結衣に決まってんべ。

 


 いや、もちろんユミだって十分美人だぜ。

 それに、どんなナリだろうが、俺が愛してる女は世界でユミだけよ。

 それは間違いねー。

 俺ぁ世界が滅んでもユミと別れたくねえし。


 ……でもよ。

 どっちが美人かっつったらそりゃ――


 新垣結衣だべ。


 それはもう、物理的にそうだべ。

 リンゴが上に落っこちるってことはありえねーべ。


 ……ただよ。


 その時のユミはよ、目が座っててよ。

 冗談が通じる感じじゃなかったのよ。


 ――答えを間違えたら死ぬ。


 俺ぁ、本能的にそう思ったね。

 そう。

 ユミがこの時俺に聞いていたのは「自分が新垣結衣より美人かどうか」ということじゃなく「お前は生きたいのかそれとも死にたいのか」ってことだったワケよ。

 

 ……俺だってまだ死にたくねえ。

 だから、「世界で一番綺麗なのはお妃様ユミです」って言いかけたよ。


 でもその時よ。

 俺の頭のなかでとある言葉が思い浮かんだのよ。


「嘘をついちゃ駄目なんだよ!」


 そう。

 俺の師匠、マドカさんの言葉よ。

 師匠の言いつけを守れねえ弟子は弟子失格だべ。


 だから俺は迷ったよ。

 ギリギリまで迷った。

 ……でも結局、俺ぁ――


「そりゃおめー、ユミの方が美人だべ。おめえは宇宙一のべっぴんよ」


 って言っちまった。


 マドカさん、すまねえ。

 俺ぁ、嘘をついちまった。


 俺ぁ後悔してよ。

 すぐにマドカさんの幼稚園に報告へ行ったのよ。

 そしたらよ、マドカさんはこう言ってくれたぜ。



「伝説ポケモンは普通のポケモンより強いんだよ!」



 ってよ。

 まあ言ってる意味は全然分かんねーんだけどよ。

 なんとなくためになったぜ。

 多分、今マドカさんはポケモンに夢中なんだろうな。

 

 ともかくよ。

 俺ぁ、「魔法の鏡」をマジリスペクトするぜ。

 あいつぁきっと、誰よりも正直者だぜ。


 まあそのせいで鏡は妃にぶっ殺されたらしいけどよ。

 ま、時には嘘も必要ってことだな。


 でよ。

 怒ったお妃は森にすむ白雪姫に毒リンゴを食べさせて殺すんだけど、たまたま通りかかった王子様のキスで生き返って、二人は結婚して幸せに暮らすんだってよ。


 まじでめでたしめでたしだよな。

 

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