第23話 『アリとキリギリス』
やあ。
今日はすまないね。
ダイゴの奴が来れないというから、私が代わりに来させてもらったよ。
ダイゴの父です。
あいつは今「筑後のデビットカッパーフィールド」に会いに福岡に行っていてね。
お土産は明太子あたりを期待しているんだが、果たしてどうだろうかね。
おっと、無駄話はこのくらいにして。
それじゃ、早速始めようか。
昔々のことだ。
あるところにアリとキリギリスが住んでいた。
キリギリスは怠け者でね。
毎日毎日、バイオリンを弾いては遊んでばかりおった。
他方、アリはと言うと、将来のためにコツコツと食料をため込んでいたんだ。
キリギリスはアリを馬鹿にしていたんだが、やがて厳しい冬が来たとき。
アリはため込んでいた食料のおかげで越冬したのだが、キリギリスは遊んでばかりいたので冬を越せずに死んでしまったんだ。
うむ。
素晴らしい話じゃないか。
将来のために備えておかねばならぬという教訓に満ちている。
……私もね。
息子のダイゴには「このアリのようになれ」と厳しく育てたつもりなんだがね。
どういうわけか――
見事なヤンキーになってしまってね。
世間には申し訳ないですよ、ええ。
まあ、今のところ警察のお世話になるようなことはしておりませんがね。
というか、逆に私の方が一度通報されかけたんですがね。
まあ、それはもういいじゃないですか。
いやね。
ダイゴのやつもね、昔は可愛かったんですよ。
今じゃ信じられんでしょうがね。
お父さんお父さんと言ってね。
とても私に懐いてくれて。
私も威厳のある父親でしたよ。
それが今じゃ――
河童扱いですわ。
私だってね、禿げたくて禿げたわけじゃないんですよ。
ええ、ええ。
今年の父の日のプレゼントはきゅうりの詰め合わせでしたしね。
そもそも。
ダイゴは母親の方に似ておるんですよ。
気性も顔も、それから腕っぷしもね。
ええ、そうですね。
うちの嫁は強いですよ。
ああいえ、気が強いとかじゃなくて。
単純に攻撃力が高いんです。
そんな嫁でもね。
結婚した当時は本当に可憐だったんですよ。
華奢で物静かでね。
まるで子猫のように愛らしかった。
まあ実際は“ベンガルトラ”だったわけなんですけど。
ええ。
ネコ科最強の生物ですよ。
ついこの間もね。
生活費ちょろまかしてキャバクラに行ったのが嫁にバレたんですが――
見事な“フランケンシュタイナー”を食らってしまったよ。
あっはっは。
まさか嫁があんな空中殺法をマスターしているとはね。
全く。
私がMじゃなければ今頃とっくに離婚してますよ。
え?
私はMなのかって?
はっは。
これは口が滑ってしまったな。
そうなんだ。
実は私は――
周りが引くくらいのマゾヒストでね。
実は今もこのスーツの下は縄で縛られていてね。
麻縄が肌に食い込んで気持ちい――いや、非常に痛いんですよ。
こうしているだけで、とても苦痛でね。
え?
痛いなら解けばいいじゃないかって?
ばかもの!
そんなもったいないことが出来るか!
こっちは遊びでやっているんじゃないんだ!
……すまない。
少し興奮してしまった。
まあ、縛ってくれと頼んだのは私自身なんでね。
放っておいてくれたまえ。
ああ、そうだ。
君、どこかにいい女王様がいたら紹介してくれないか。
最近は女王様業界も人材不足でね。
新しい女王様が育ってないんだ。
私が定期講読している月刊『女王蜂』でもその事をやたら憂いていてね。
今月の特集号では特に――
え?
なんの話してるんだって?
ああ、すまないすまない。
話がそれてしまったな。
とにかく、私が今日言いたかったのは、だ。
SM業界の未来は、「新しい女王様の育成にかかっている」と言うことなんだよ。
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