第22話 『一休さん』


 ……うっす。


 わり。

 実は今日もよ、ちょっとへこんでんのよ。


 いやそれがよ。

 最近、近所にすんげー怪しいやつが出るって言う噂があってよ。


 なんでもよ。

 そいつは真昼間っからフンドシ一丁で出歩いてて、頭から紙袋を被ってるらしいのよ。

 んで時々、空に向かってなんか叫んでるって言うわけ。


 ほら、最近物騒だべ?

 近くに小学校もあるしよ。

 やべー奴だとまずいってんで、近くに住むもん同士で見回りしてたのよ。

 

 で、昨日のことだよ。

 俺たちぁついに、そいつを捕まえたのよ。

 そしたらよ――



 うちの親父だったよ。



 親父の野郎、どうも怪しい雑誌に書かれてた「UFOを呼ぶ方法」を実践してたらしくてよ。

 本気でUFO呼ぶ気だったのよ。


 どうもスター〇ォーズ見たみてーでよ。

 地球を飛び出して宇宙を守りたかったらしいわ。

 まあ、息子の俺としてはその前に区の条例を守って欲しかったぜ。


 ……わり。

 なんか身内の愚痴を言っちまったな。


 じゃ、今日も早速始めるべ。


 ちょー昔のことだよ。

 あるところに一休とかいう子供の坊主がいたんだって。


 なんでもこの坊主。

 すげー頭がよくてよ、町でもとんち坊主ってことで有名人だったんだってよ。


 んでよ。

 ある日、街の庄屋がよ、この坊主を試してやろうってんで、無理難題を設けるわけ。


 庄屋はよ、この坊主を家に呼ぶわけよ。

 この庄屋の家の前には川が流れてて、橋を渡らないといけないワケ。


 それなのに、橋には「この橋渡るべからず」と書かれた看板があんのよ。

 橋を渡らねーと行けねーのに、橋を渡っちゃいけねー。

 まさに“無理”だよな。


 でもよ。

 一休は堂々と橋の真ん中を歩いていくワケ。


 当然、庄屋はよ、「橋を渡るなと行ったであろう」って怒るわけ。


 そしたらドヤ顔で一休はこう答えるのよ。


「庄屋さん。僕ははしではなく、真ん中を通って来たんです」


 ってよ。


 ……いや、あのよ。

 ちょっと一言いわせてくれよ。


 はしを通らずにはしを通った?


 一休よぉ、お前いくらなんでもそれは――





















 上手いこと言いすぎだぜ!



 橋と端をかけたわけだな!

 なるほど、俺ぁ思わず膝を打ったぜ!


 いやよー。

 世の中にはすげー坊主がいたもんだよな。

 頭いいぜ、この坊主。



 ……でもよ。

 そこで俺ぁはたと気付いたのよ。


 一回だけだと、ただの偶然ってこともあんじゃねーの?


 ってよ。


 実は俺も、昔一度だけ算数で100点取ったことあんのよ。

 一回だけなら「まぐれ」ってもんがあるのよ。

  

 ところがよ。

 実は一休にはもう一つ逸話があるわけ。


 ある日のことよ。

 一休の評判を聞きつけた将軍のおっさんがよ。

 一休を呼んでこれまた無理難題を持ちかけたのよ。


「一休よ。この屏風に描かれた虎を捕えてみせよ」


 ってよ。

 

 んなもん、無理に決まってんべ?

 絵に描かれた虎なんてよ、捕まえられっこねーよ。


 ……でもよ。

 一休はこれまたどや顔で「出来ます」って言うのよ。


 将軍、ビビるわな。

 まさかそんなこと出来るわけねーって、ビビるわな。


 んでよ。

 一休はどうするのかと思ったらよ。

 虎を捕まえる準備を整えてから、将軍に向かってこういうわけ。

 

「将軍様。それでは、虎を出してくださいませ。そうじゃないと虎は捕まえられません」


 ってよ。


 将軍のおっさんはこりゃやられたって白旗上げたワケ。

 


 俺ぁよ。

 この話聞いた時、こう思ったのよ。
























 はあ?





 


 なんだよそれは!

 意味わかんねーよ!

 こっちはどうやって虎を捕まえるんだってワクワクしてんだよ!


 それが「出せないなら捕まえられません」てなんだよ!

 そりゃとんちじゃなくて屁理屈って言うんだよ!

 つかよく考えたら橋の件も単なるダジャレじゃねーか!

 なにがとんち坊主だよ!

 いい加減にしろよ!




 慌てない慌てない。

 一休み一休み。




 じゃねーよ!

 母上様は元気にしてんのかよ!


 ……って思ったんだけどよ。


 どうもこの一休、のちにすげーえれー坊さんになったらしいのよ。

 やっぱ頭よかったみたいだな。

  

 マジでめでたしめでたしだぜ。


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