第18話 『おおきなかぶ』


 ……うーす。


 ん?

 なに深刻な顔してるのかって?

 いやよ、ちょっと今日は“正義”について考えててよ。


 世の中にはよ、色んな正義のヒーローがいるよな。


 仮面ラ〇ダーとかよ、ウ〇トラマンとか。

 みんなすげーかっけーし、愛されてるよな。

 なによりつえーしよ。


 ……でもよ。

 じゃあ今のこの世の中で、誰が一番の正義なんだって言ったらよ。



 俺ぁ、カレーだと思うんだよ。



 カレーってのはいつ食っても、誰が作ってもうめーんだよ。

 たくさんの人を幸せにしてんだよ。

 料理界じゃ多分、一番つえーべ。

 まさに正義そのものだよ。


 でもよ。

 そんなカレーが唯一、俺たちに牙を剥くときがあんだよ。

 それが――


 「バイキング」のカレーよ。


 俺ぁ食い放題ってのが好きでよく行くんだよ。

 色んなもんを好きなだけ食える。

 夢のようじゃねえか。


 でもよ。

 その中にカレーがあると、あまりに美味そうでよ、ついそればっか食っちゃうのよ。


 そのせいで、俺ぁいつも他の料理があんまり食えねえんだ。

 んで、毎度ちょっと損した気分になっちまうんだよ。


 美味すぎるってのは罪なもんだべ。


 ……ま、この世の中には絶対正義なんてものはねーのかもしれねーな。


 じゃ、今日も早速はじめんべ。


 ちょー昔のことよ。

 あるところにでっけーかぶが生えてたのよ。


 んでよ、ジジイがこのかぶを抜こうとするんだけど、全然抜けねーの。

 しょうがねえからババア呼んでよ、一緒に抜こうとするけどまだ抜けねー。

 ほんじゃあってことで、孫を呼んで3人でやるんだけど、それでも抜けねーわけ。


 もう人手がねーぞって思ったらよ、ジジイ、今度は犬を呼んで手伝わせるのよ。

 んで、犬でも抜けねーから猫呼んで、猫でも抜けねーからねずみ呼んだの。

 最後にねずみも一緒に引っ張ったらよ――


 そこでようやく抜けたのよ。


 要するに、3人と3匹が連なって一斉に引いたらかぶが抜けたんだな。


 ……俺ぁよ。

 この話聞いて、どうもうさんくせえと思うんだよ。

 だってよ――



 ねずみの力なんてあってもなくても一緒だろ。



 だってそうだろ?

 ネズミの力なんて誤差だべ誤差。


 それから、猫もぜってー力を入れてねーよ。

 猫ってのはよ、人間の言うことを聞かねえのよ。

 ここに来いって言ったらぷいってそっぽ向いてよ、放っといたらいつの間にかそばに寄り添ってんのよ。

 あいつらは好き勝手やるのよ。

 そこがたまらなく可愛いの。


 わり、ちっと話がそれちまったな。

 つまり、この2匹は最初から戦力になってねーってことよ。


 それなのに、この2匹が来て、急にかぶは抜けた。

 本当なら、いなくたって抜けたのによ。


 不思議だよな?

 

 俺ぁ、その答えの鍵はよ、“孫”が握ってると思うんだよ。


 どういうことかって言うとよ。

 最初、ジジイとババアに呼ばれた孫はよ、ぶっちゃけちょっと手を抜いてたと思うのよ。


 あの頃のガキはよ、手伝いとかそういうの、超嫌うだろ?

 きっとよ、ニンテンドースイッチかなんかやってて呼ばれたんだよ。

 あーうぜーってなもんよ。


 だけどよ、いくらやっても抜けねーから、ジジイが犬を呼んで手伝わせ始めたのよ。

 まあ、ここまでは分かるよな。

 犬は力があるし、忠実だからよ。


 でも、ジジイは今度は猫を呼んできた。

 ここで、孫はこう思ったはずよ。



 あれ? うちの爺さん、ボケてんじゃねえのか?



 って。


 だってよ。

 力仕事すんのに、猫なんて普通呼ばねーべ。


 さらに、だよ。

 ジジイはネズミを呼んできた。

 その時に孫は、いよいよ確信に至ったと思うわけよ。



 あ、だめだこれ、完全にやべーやつだ。



 ってよ。

 ねずみの力を借りようなんて、もうボケてるとしか思えねーべ。


 この時、孫はこう思ったはずだよ。


 このままじゃまずい。

 このジジイ、このままだと最終的にはカブトムシとかクワガタまで連れてくる。

 

 それで、ようやく孫は本気出したのよ。


 こっからはもう、死にものぐるいよ。

 友達にカブトムシと一緒にかぶ抜いてるとこ見られたらたまらねーべ。

 次の日、学校で変なあだ名つけられるの確定だよ。


 んで、普段持ってる以上の力を孫が発揮して、かぶは抜けたわけよ。

 これが「おおきなかぶ」の真実だってわけだ。


 ま、何にせよ、かぶが抜けてよかったぜ。

 

 マジでめでたしめでたしだよな。


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