第17話 『金太郎』


 ……コンニチハ。

 今日はお兄ちゃんの代理できました。


 ヤヨイです。


 ……お兄ちゃんは今、『山陰のサイババ』に会いに行くと言い残して鳥取砂丘に行きました。

 だから今日は、あの、お兄ちゃんの代わりに来ました。


 それじゃあ……あの、はじめさせていただきます。


 あ。


 あの、話が分かり辛かったりしたら……その、ごめんなさい。

 私、昔から口下手で。


 今日は「金太郎」という昔話をさせてもらいたいと思ってます。


 昔むかしのことです。

 あの、その、あるところに、金太郎という男の子がいました。

 男の子は、えと、とても強くて、その、動物たちとお相撲を取ったりしてたんです。


 え?

 動物好きで強いって、私のお兄ちゃんみたい?


 ……そ、そうですね。

 言われてみればそうかもしれません。

 お兄ちゃんはとても喧嘩が強いですから……。


 でもお兄ちゃんは強いだけじゃなくて――























 とても優しいの。私が泣いてるといつも突然現れてイジメられている私を助けてくれるの。子供のころからいつもいつもそうだったわ。まるで私の危機を察知するレーダーがついているみたいに絶対に駆けつけてくれた。そう。ダイゴお兄ちゃんは妹の私から見てもとろけちゃうくらいかっこよくて優しい人なの。私は妹だから恋愛対象ではないけれどもしも血が繋がっていなければきっと好きになっていたと思う。お兄ちゃんは周りに馬鹿だ馬鹿だといわれるけれど実は馬鹿じゃないことも私は知ってる。お兄ちゃんは人よりちょっと純真なだけで決して頭が悪いわけじゃないの。それに困ってる人とかいじめられてる人がいたら絶対に看過できない人。手を差し伸ばすことが出来る人。そんな人がこのクズだらけのウジ虫のような現代社会にどれだけいるかしら。私は見たことない。お兄ちゃんより優しくてかっこいい人なんて見たことない。それはそうよね。お兄ちゃんは世界で一番ううん宇宙で一番かっこいいんだもの。お兄ちゃんが微笑めばこの腐ったどうしようもない野蛮な世界もその分だけ浄化されるんだもの。それだけ素敵な人だから妹の私が好きになっても変じゃないよね。血の繋がり?ごめんなさい。さっきはあんな風に言ったけどやっぱりそんなもの『真実の愛』の前にはどうでもいいことだと思うの。私はお兄ちゃんが好き。きっとお兄ちゃんも私が好き。それがライクじゃなくてラブだったとしても何の問題があるというのかしら。誰に二人を引き裂く権利があるというのかしら。そう。この美しい無垢な愛はあの『絶対神ニャホロポポーン様』もきっとお認めになるわ。あの方の神託・福音・天祐があれば私たちの幸福は約束されたようなもの。ふふ。ふふふ。そうして私とお兄ちゃんは天空の祝福を受けて永遠の世界へと旅立つんだわ。そこには二人きりしかいなくて私たちは『マルクソースの丘』で二人だけの結婚式を挙げるの。それを見ているのは青い鳥と極彩色のお花たちだけ。そして私とお兄ちゃんは神々の庇護のもとその芳醇な大地であるエデンの園でいつまでも愛し合うの――



 ……あ。

 ごめんなさい。


 私ったら、つい。

 お兄ちゃんのことになったら我を忘れちゃって。


 あ、金太郎さんは偉い武将様のお抱えになって立派な侍になったそうです。


 めでたしめでたしですね。

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