第4話 『王様の耳はロバの耳』


 おいっす!

 今日もあっちーな。

 っとによ、毎日毎日いやになるよな。


 でもよ。

 またおもしれー話聞いたからよ、教えてやるよ。


 今日はいつもと違ってよ、外国の話よ。

 すげーだろ。

 まさか俺の口から外人の話が出てくるとは思わなかったべ。


 外国ってどこだって?

 ん~、聞いてねえけど、多分アメリカだな。

 王様がでてくっから。

 今は、トランプってのが王様やってるもんな。

 学がねえ俺でもさすがにそんくらいは知ってるぜ。


 でよ。

 すんげー昔よ、アメリカの町に腕のいい散髪屋の兄ちゃんがいたんだってよ。

 そんでよ、その兄ちゃん、あんまり腕がいいからよ、王様の髪を切っていいことになったんだって。


 そしたらよ、なんかその王様、頭にロバの耳が生えてたんだってよ。

 ……可愛いよな。

 いや、おっさんが可愛く思えるんだからすげーよ、 動物の耳ってよ。

 そりゃ女がうさぎの耳付けたらくっそ可愛いに決まってんべ。


 でよ。

 この散髪屋の兄ちゃん、このことを誰かに言いたくて言いたくてたまらなくなったんだってよ。

 んで、毎日毎日、井戸に向かって「王様の耳はロバの耳だ」つって叫んでたんだって。


 ……分かるわ。

 ゲロ分かるわ、その気持ちよ。


 俺もよ、実はすんげー言いてえことがあんだ。

 誰かに言いたくて言いたくて仕方がねえ『秘密』がよ。


 え?

 誰の秘密だって?


 そりゃあ言えねーよ!

 言えるなら苦労してねえよ!


 ……。

 …………。

 ……………………。


 ………………………………キムラ先輩のことだよ。


 え?

 言いたいんなら聞いてやるって?


 馬鹿野郎!

 言いたくても言えねえことってのがあるだろ!

 俺ぁよ、キムラ先輩を尊敬してんだよ!

 そんな先輩の秘密を、後輩の俺がぺらぺら喋れるかっつーんだよ!












 キムラ先輩、おっさんなのにアイプチしてんだ。


 おい!

 お前、ぜってー誰にも言うんじゃねえぞ!

 言ったらぶっ飛ばすかんな! 

 

 つかよ、俺は悪いことだとは思ってねーんだ!

 アイプチなんて、女なら誰でも使ってるしよ!

 おっさんがお洒落したっていいよ!


 でもよ……正直、キムラ先輩、ぱっちりお目目が死ぬほど似合ってねーんだわ……。

 だってよ、剃りこみパンチパーマにアイプチだぜ?

 似合うわけねーべ。


 俺さ、時々笑いそうになっちまうんだよ。

 キムラ先輩が渋いこと言うたびによ、あの可愛いクリクリ目を見ると吹き出しそうになっちまって……。


 ああ――


 ちょースッとした!

 今日はありがとよ。

 言いたいこと言えて、すげースッキリしたぜ!

 

 でよ。

 さっきの続きなんだけど、なんか王様の耳がロバってのがみんなにバレてよ、なんやかんやあって、最終的にはおっさんの頭からロバの耳が取れたんだって。

 

 まじでめでたしめでたしだよな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る