第3話 『浦島太郎』


 うーっす。

 今日もあっちーな。

 ほんと、暑くて死にそうだべ。


 おめーら、水だけはちゃんと飲めよ。

 あと、俺と同じような体動かす仕事のやつは、塩飴、舐めとけ。

 無理してっとよ、マジぶっ倒れんぞ。


 ってことでよ。

 夏本番ってことで、今日は海の話をしようかと思ってよ。

 ちょっとでも涼しいほうがいいと思ってさ。


 ものすんげー昔のことよ。

 浦島太郎って兄ちゃんが砂浜歩いてたんだって。


 そしたらよ、クソガキがでっけー亀いじめてんの。

 俺よ、こういうの聞くだけでイラついてくんだよね。

 動物イジメるとかマジで許せねーよ。

 アイスの蓋の裏をべろべろ舐めまわすやつよりムカつくぜ。

 俺、あれも嫌なんだよね。


 んでよ!

 こっからがまたすげーの!

 なんと、亀が日本語喋って来たんだってよ!


 いやー、昔ってすげーよな。

 だって動物が喋るんだぜ?

 桃さんのときもそうだったけどよ。

 マジ、羨ましすぎるぜ。


 そういやよ。

 昔は、殿様とかちょー強かったらしいじゃねえか。

 なんかゲームとか見てると織田信長とかがビーム光線出してるしよ。

 カオスすぎだろ、江戸時代って感じだよな。

 多分、信長にはキムラ先輩も勝てねえな。


 あ?

 織田信長は江戸時代じゃない?

 マジかよ。

 昔ってぜんぶ江戸時代じゃねーのかよ。

 勘違いしてたわ。

 ま、どうでもいいやな。


 でよ。

 その亀が言うにはよ、背中に乗れって言うわけ。

 竜宮城っつー、すげー美人がいる城に連れて行ってくれるんだってさ。


 これ聞いてよ、俺ぁびびったぜ。

 そんなクソ昔にも、竜宮城ってあったんだな。

 

 俺もキムラ先輩と時々行くんだよ。

 大宮の桜木町にあるキャバクラ『竜宮城』。


 え?

 その竜宮城とは違う?


 嘘つけよ。

 ナンバー1のアケミちゃん、超美人だぜ。

 ちょっとおねだり上手で大変だけどよ。

 いや、もちろん本気じゃねーよ?

 俺にはユミがいるからよ。


 でよ。

 浦島の兄ちゃん、亀に乗って竜宮城に行ったわけ。

 

 そしたらやっぱり超マブい乙姫っつー女が出てきたわけ。

 で、どんなエロいサービスがあるかと思ったら、なんか鯛とかヒラメが踊り出したんだって。

 

 ったく、がっかりだよな。

 浦島の兄ちゃん、同情するぜ。

 魚類の踊り見てなにが楽しいんだっつーんだよな。

 

 でもよ。

 そうは言っても美味い飯とかめっちゃ食わせてくれたらしいのよ。

 美味い飯っつったらなんだろな。

 多分、ステーキと寿司だな。

 高い食いもんつったらそれしかねーべ。

 俺の予想だと、すたみな太郎みたいな感じだと思うぜ。


 でよ。

 いよいよ帰る日になったわけよ。

 そしたら乙姫のねーちゃん、お土産くれるっつーわけ。

 なんとか箱って名前だったけど、わり、名前忘れちまったぜ。


 んで、乙姫のねーちゃんが言うには、この箱は絶対あけちゃだめって言うのよ。

 いやいやちょっと待てやと。

 そう思うわな。

 そう思うべ?

 あけちゃダメなもんをプレゼントするとか意味わかんねーし。


 でもよ、女っつーのはたまにそうやって意味が分かんねーこと言うよな。

 ありゃなんなんだろな。

 こないだユミが読んでた少女漫画にも書いてあったんだよ。

「大っ嫌い! ほんと大っ嫌い! こんなにも大好きにさせるあんたなんて大っ嫌い……」

 ってよ。


 いやどっちだよ! って思ったぜ。

 ユミはそれ見て泣いてるしよ。

 ほんと、わけわかんねーよな。


 でよ。

 浦島の兄ちゃん、地上に戻るとやっぱりその箱開けちゃったんだよ。

 そしたらよ、もくもくって白い煙出てきて、浦島の兄ちゃん、爺さんになっちまったんだって。


 まじでめでたしめでたしだよな。


 ……とはいかねーだろ!

 

 いや、乙姫のねーちゃん、それはねーだろ!

 お礼にくれたんじゃねーのかよ!

 わけわかんねーよ!


 ……これ、俺の予想なんだけどよ。

 乙姫のねーちゃん、多分、浦島の兄ちゃんとデキてたんだな。

 んで、もう2度と会えない浦島の兄ちゃんが、地上で他のねーちゃんとデキねえようにジジイにしたんだよ。


 いやあ、女ってのはこえーよな。

 お前らも、浮気とかマジ気をつけろよ。

 俺も、キャバクラ『竜宮城』のアケミちゃんからは手を引いとくぜ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る