なんでサッカーばっかり。


 七月になったのでカレンダーをめくると、今月のリラックマはサッカーをしていて、憤死しそうになった。


 いや、どういうことか今から詳しく言う。取りのぼせて、上のような一文になってしまった。

 カレンダーをめくったのだ。朝。うちのカレンダーは毎年、親しくしている後輩のおかあさんがくれるものである。うちの子供たちが喜ぶだろうと、おかあさんは暮れになると必ずムーミンやらはたらく車やら、そういうキャラクター及び写真の入ったものを贈ってくださる。

 で、今年はリラックマやねん。カレンダーが。ね。めくったの。七月になったから。したら、今月はリラックマがちっこい白いのと一緒に、サッカーをしてるのだ。ひょっとしたらフットサルかもしらんが、こちとらサッカーもフットサルも違いがわからん。蹴毬とセパタクローならさすがにわかるが、とにかく、白いのがボールを蹴り、茶色いのがゴールキーパーをしている。これはあれか。やっぱり、今ロシアでやってるというW杯を受けての仕様なのか。


 なんでサッカーばっかり。


 予選は確か先月からやっていただろう。それくらい知ってる。でも知りたかったわけではない。みんなが話題にするので耳にしていた。それだけのことだ。で、予選を勝ち進んだというのも聞いた。いい試合をしたらしいな。でも全部、積極的に集めた情報ではない。勝手に、みんなが教えてくれるのだ。パート先の惣菜屋でも、お客が急に、「いやー。勝ちましたね!」なんて言ってくる。昨日阪神は負けたはずだが、一体何の話をしているのかこの人は、と怪訝な顔をしていると、むこうも察して言葉を継ぐ。「サッカー!」


 ごののののの。なんでサッカーばっかり。


 我がラ式蹴球、ラグビーフットボールだって六月のテストマッチで日本代表はイタリアとジョージアに勝った。でも話題になんかならない。ほとんどならない。なんでだ。ルールが難しいからか? いや、そんなことはない、ためしにテレビをつけて、一試合の前半四〇分だけでも通しで見れば大体わかるようになる。細かいことは解説さんが説明してくれるから大丈夫! 生身の人間が防具もなしでぶつかり合う、その音を聞くだけでも興奮する。おまえら全員俳優か?(しかもすげー田舎芝居)とつっこまざるをえない、ちょっと他人と当たっただけで痛くもないのに「きゃああ~、いたいよママー」って転げまわるあのサッカーの小狡く片腹痛いプレーは一切ない。痛くても我慢、すぐ起きて走る、あれ、あの人鼻の横にサワガニのカラ揚げ付けてない? っていうのはコブ&流血である。お客さんだってスタンドは呉越同舟だ、敵味方席なんて分かれていなくて、どっちものチームのジャージや旗が隣同士入りみだれてみんなビールを飲んでいる。それでもラグビーの会場では殴り合いも放火も圧死もないし、試合が終わったらすぐに選手同士は握手をしてユニフォームをとりかえっこしたりする。

 なんとすがすがしいスポーツなのか。


 などという話はしかし、元々聞きたい人しか聞いてくれなくて、つまるところタコ壺談義なのである。ひろく多くのいちげんさんたちに、一体どのようにしてラグビーを見てもらうか、応援してもらうか、一般市民のオバハンでありながらわたしは心底気を揉んでいる。

 ラグビーは来年ワールドカップなのだ。しかも、我が国で開催されるのだ。アジアでやるのは初めてなのだ。歴史的なことなのだ。まえのW杯では日本代表よく頑張ったけれども、五郎丸君も時の人扱いでずいぶんテレビに出たけれども、もうみんなそんなこと忘れてしまっただろう。ちゃんと思いだして、ちょっとでも気にかけてあげてほしいのだ。本当に、すごくおもしろいスポーツなのだ。リラックマも、来年十月には、いやもう予選の九月から二ヶ月またぎで是が非でも、楕円形の球を持ってマウピーを嵌め、白いのはヘッキャをかぶって、走り回る姿をカレンダーにおさめて欲しい。


 わたしはお茶を飲みながら親しい友人にそう話したが、「あ~、無理無理」と一蹴された。残念ながら、話したわたし自身そう思う。かなしい。日本ラグビー協会は是非自分で電話しなさい。サンリオとかに。

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