オールウェイズトゥギャザー、てルー大柴か。


 南紀に行ってきたのである。パンダがいるというあそこへ。またしても当然、ぶらさがり旅行で。

 和歌山は三度目、そして海側は生まれて初めてなのだった。これまでわたしが行ったことのある和歌山は、高野山と、有田のミカン畑だけだった。

 さいぜんまでコンビニもないクソ田舎にすんでいたわたしに言われたくないと思うが、和歌山は田舎だった。少なくとも、阪和道から見える和歌山は。湯浅あたりからだったか、道路が対面走行になるのにも驚いた。対面走行の高速道路なんて、わたしにとっては十数年前に土佐へ行ったとき以来である。そんなに田舎か和歌山、同じ近畿なのに、の感が押し寄せる。


 夕方に着いて、食事の時間まですることもないので、千畳敷というところへ行ってみた。名勝、ということだったがさして期待もせずぶらぶら出掛けた。しかし、果たして、名勝であった。自然の作りだしたバームクーヘンのような薄茶色の岩場に波が砕け、海面に照り返る夕日、遠くの山並みも美しく、看板に偽り無し。落書きというのか、岩の表面に、訪れた人々が彫りつけた名前や記念の文言が数多見られ、真面目な長女は大変憤っていたが、この壮大な自然の造形を前にすると、わたしなどは逆に、「百年もしたらそれも全部消えるでな」なんて、人間の小ささを思って腹も立たなかった。

 宿に入っては風呂、メシ、寝て、起きて、風呂、メシですぐチェックアウトとなる。晩に飲んだナギサビールという地ビールのペールエールがおいしかった。

 そして今回の旅のメインである南紀随一のテーマパークへ。とりあえず全てがパンダ、というくらいのパンダ押し。従業員さんはみんなパンダの帽子をかぶって接客していたし、入ってすぐのショウウィンドウに並んだパンダグッズがすごい。パンダなら王子動物園にもいるが王子のパンダ押しはここまでじゃない。

 今日は先方の都合で時間が決まっているものを優先で消化しよう、ということで、まずケニア号というバスに乗ってサファリを回り、次にイルカショーに行くことになった。ケニア号の乗り場へ行く途中、パンダの居住地を通りかかって遠巻きに見たが、白浜のパンダは白と黒ではなく茶色と黒だった。この温泉地で、風呂には入っていないらしい。

 列車状に数両のバスが連結されたケニア号に乗って昼寝中のライオンなどを見、うちの猫と同じだ、などと思いもしたがそれ以上に「あ、柔かそうなヨモギ」「あすこ、めっさデカいイタドリが生えたあるわ」などと、路肩に生い茂る野草(食べられるヤツ)をチェックしたり、前の車両の男の子が延々鼻くそをほじっているのを観察するのがやめられなかった。どこへ行っても「周辺の事象」にばかり興味をそそられる癖がある。

 イルカショーはイルカショーで、まだ三月、あのお兄さんやお姉さんは一体全体寒くないのか、冬季はさすがに休業しているのか、という事ばかりが気になり、見ているだけで風邪を引きそうな心持ちになった。また、イルカが賢い動物だというのはよくよくわかったが、それでいてそうした知能の高い生き物に相応しいプライドのようなものがみじんも感じられないことの方に衝撃を受けた。しかも顔のつくりがなんだかニヤけているように見えるところがまた痛い。本当に頭が良いのならば、わずか数匹の鰯のために、そんなに唯々諾々でよいのか。アホくさ、と思って反抗したくなったりしないのか。あれなら競走馬の方が、気分次第で走ったり走らなかったり乗り手を振り落としたり、ずっと誇り高く、一筋縄ではいかない生き物のように思われる。2012年の阪神大賞典で、なんぞ気に食わないことがあったのか、いきなり走るのをやめて馬群を離れてしまった直後、再び「けどやっぱ走るか」とでも言うようにがんがん駆け足で戻って来て二着に入ったオルフェーヴル(youtubeで見られる)なんか、実に面白かった。だからこそ、競馬を知らないわたしですら知っている。ショーに出るイルカたち、とくにセンターにいた黒いのは、外海の、野生の仲間のことをどう思っているのか。教育を受けたことのないザコ、くらいに見下しているのか。


 帰りに駐車場にいた誘導係の職員さんは、パンダと何かのぬいぐるみを嵌めた両手を振って、見送ってくれた。蒸れるやろうなー、と思った。


 楽しい旅行だった。また行きたい。

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