夢枕



 このまえ子どもの学校の会議で、N君んちの、ものすごいアニメ声のお母さんがある議題について穏やかに、しかし確実に怒りを表明し、臨席していて怖ぇー、と思ったんだけども、そのことが影響したのか、その晩わたしは預かり物だったPTA関係の書類を汚したかどでN君のお母さんから口をきわめて(アニメ声で)問責された上、ついでに貧乳であることを(アニメ声で)揶揄される、という内容の夢を見た。

 さらに先週、必要なものがあるわけでもないのに家電のチラシを熟読し、さまざまな洗濯機を比較していたらその晩、義母が突然、やっぱりこれが一番いい、と言って二槽式洗濯機を買ってくる、という夢を見た。


 夢の筋書きというのはたいてい無茶苦茶なものだ。『じゃりン子チエ』の作者はるき悦巳さんが作中描くチエちゃんやテツの見る夢は、その支離滅裂ぶりが大変リアルですばらしく、そうそう、夢ってこうよな! と何度読んでも感服してしまう。けれども、ときたまびっくりするほどストーリーがしっかりしたものもあって、それが悪い夢だったりすると、ほんとにほんとに夢でよかった、と目が覚めてから胸をなでおろす。そして、先に述べた二つの例のように、日中の出来事がもろに影響した夢を、わたしはよく見る。わたしの夢は常にオールカラーだが、聞くところによると、モノクロで夢を見る人もいるらしい。おお、じゃあそれは、自分がキートンやチャップリンの映画の出演者になったみたいな感じなのだろうか、と非常に興味深い。


 わたしは毎日最低二回、だいたい朝と晩に一回ずつ、あとはその日の自分のコンディションにもよるが、とにもかくにも日に数度、閣下のことを思い出す。おばあちゃんに会いたいなあ、と思う。聞きたいことや言いたいことがたんとあるが、もしも会えるのであれば、別に喋れなくても構わない。

 まあ、そうして思い出していると、三か月にいっぺんくらいの割合で閣下が夢に出てきてくれる。しゃべれる日もあるし、そうでない日もある。ぼけてしまってから、閣下はよく、キクさん(閣下のお母さん、つまりわたしのひいばあさん)に会いたいけれども、夢にも出て来てくれない、とぼやいていた。そういう自分の経験からか、わたしの希望には極力応えてくれているのかもしれない。

 去年見た夢で、閣下が「こんなもんしかないけど、あんた欲しいか?」とわたしに模造真珠のビーズと稲の穂をくれたことがあって、目が覚めてからこれは何の報せなのだろうか、ひょっとしてものすごく験のいいことなんじゃなかろうか、宝くじとか買いに行った方がいいんじゃないのか、と一瞬浮き足立っていたのだが、特段何も起こらないまま、普通の一日が終わった。でもまあ、そんなもんだろうと思う。普通が何よりだし、それに、閣下に会えたことだけで、いつもよりいい一日だった。それで構わない。


 で、そろそろまた出演日のはずなのだが。

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