修繕と応急処置
デニムパンツのケツ部分、履き込んできわめて生地が薄くなっていたところに裏から当て布をして修繕補強をした。スウィート・キャメルのヒップスターってやつだ。黒。大学生の頃から持っているから、えーと、十五年物くらいかと思う。よう履いたなー。そしてまだ履くつもりなわけである。同じ型の青も、当て布に当て布を重ねて十年履いたが、登板回数が現存する黒の倍だったため、さすがに履き潰して数年前にお別れ式をやった。最後には当て布した面積の方がしていない面積よりも大きくなっていて、さながら二重パンツといった様相を呈していた。
ダメージデニムは依然流行している模様で、今この2017年にもわざわざ劣化加工の施された商品が売られている。サラピンのくせに穴空いてる、しかも高い、というのがわたしには納得いかないのであるが、世間はそうでもないようだ。
まあ、流行っているのだから、それに乗ったと見せかけて、このまま穴も空くにまかせ、堂々と履き続けるというのもひとつの選択肢なのかもしれないが、二十そこそこの女子の履くケツ部に穴の空いたデニムパンツと、三十路も半ばを過ぎたオバハンのそれとでは、見た目も意味合いも、全く異次元の価値体系に属するものと言ってよい。手短に言うと、ババアがそんなカッコすんな、ということである。だからわたしは、納戸の奥からミシンを引っ張り出して来て、十数年ぶりに修繕作業をすることにした。捨てて新しいのを買う、ということをしないのは、一にわたしがスカンピンの赤螺屋だから、そしてもう一つには、このモデルが、ていうか綿100%のデニムパンツ自体が、いまではなかなか手に入らないからである。わたしは根性のないポリウレタン入りのストレッチデニムが大嫌いなのだ。デニムはあちらから伸びなくていい。こちらが伸ばしていくものだからだ。
苦手のミシンをどうにかこうにか操って、80分ばかりのオペが終了、ああ疲れた。ミシンというものはどうしてあんなに複雑怪奇なのであろうか。裁縫上手の方々を心底尊敬している。しかしこれでわたしの黒デニムはまたしばらく、命永らえる見込みである。よかった。嬉しくて祝杯を上げた。
我が家にはほかにも、わたしが修繕を施して今も使っている物品がある。二点ある。何かと言えば、電気スタンドと掃除機だ。修繕というか、当初は応急処置のつもりだった。
掃除機は、ホースが駄目になった。ある日、音はするのに全然吸い込まねーな、と見てみたら、蛇腹の根元に裂け目ができていたのだった。これが完全にもげていたのならわたしも即買い替えたのかもしれないが、とりあえずガムテープを巻いてそこを塞いでみると、全く問題なく吸うのである。そして製造元に問い合わせると、ホースの替えは販売しているのだが、一本四千円するというのだ。
四千円かー。二千円やったらホースの交換で済ますけど、四千円出すならあともう六千円出してマキタのコードレスに買い替えようかなあー
なんて悩み続けてもう一年以上経つ。この件に関してはホースの裂け具合、替え部品の値段、全てがハンパだったことが敗因であろう。何の勝負だ。いや、しかし、今でも応急処置のつもりなのだ、掃除機に関しては。「応急」の対応スパンが長すぎるが、それもまた人生である。二日に一回くらいの頻度で掃除機を使いながら、必ず買換えについて考えている。
「マキタノコードレス」ふぉーん。「デモマダツカエルヨナ」ふぉーん。「マキタノコードレス」「イヤデモ」「マキタ」ふぉーん。掃除終了。うち狭。
電気スタンドの方は三年ほど前、何者かに首をへし折られ、まさしく頭と胴とが皮一枚で繋がっている、というような絵ヅラ、照明部分ががっくりと垂れ下がった状態で発見された。わたしが籔で拾ってきた桜か何かの枝を損壊箇所に当てて文字通りの「添え木」にし、やはりガムテでぐるぐる巻き、一命を取り留めた。さらに思いついて、ガムテの上からマスキングテープで素敵コーティングを施し、そのマステをわたしに下さった友人の母上に「おかあさんから貰ったテープ、こんなことに使てます」とことのいきさつと写メを送ったところ、数日後、不用のスタンドがあるから取りにおいで、と譲って下さった。貰ってばっかりなのである、本当に。
だがそれでわたしがガムテマステぐるぐるスタンドの方を捨てたのかというとさにあらず、その頃にはガムテマステ氏にすっかり愛着がわいてしまい、全然その気になれなくって、いまでもガ氏はわたしの書机の上で活躍中。噛みしめる自分のモノ捨てられない体質(と経済事情)。そしてなによりガムテープの頼もしさ。ガムテサイコー!! クレヨンのように12色セットで発売されることを望む。
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