乙子さんは実家へ洗濯に



 春先に、二十年物の洗濯機がついにお釈迦になり、新しいハイテクな奴がやって来た。汚れ物を槽内で叩きつけるようにして洗い、少ない水でもきれいになる、という謳い文句であったが、どうしてどうして、わたしは、その仕上がりに大変な不満を抱いて夏を越した。落ちてへんやろ! という怒りに打ち震えること以上に頭が痛かったのはにおいが抜けないという問題で、なぜだか知らないがインナー類、なかんづくアンダーシャツが洗っても臭い、いっぺん臭くなったシャツはその後何度洗っても臭い、抗菌防臭効果のあるという洗剤を使っても臭い、という信じられないトラブルに直面したのだった。季節は夏であった、毎日汗をかく、そらもう、わたしの勤め先はうどん屋だから、釜でがんがんお湯を沸かしている厨房に一日居るのは何の罰ゲームかと思うような暑さである。オイコラどういうことやねん、とわたしは新入りのぴかぴかボディーに一発入れたくなる衝動をどうにかこらえ、たらいにアクロン溶液を作って再度手洗いするという新しい日課をこなすこととなった。乾いた服には、それでも心なしか悪臭が残っているようだった。毎日肌着が軽く台フキンの匂い。わたしは香水を好んでつけることが多いけれども、これほど自分の香水がその本来の仕事をしているなあと感じたことはなかった。感じたくもなかったね! 実際! おまけに、ふとしたときに自分の着ているものを鼻先まで引っ張り上げて嗅ぐ、嗅いで「くっさい、ホンマくっさい」とぼやく癖がついてしまい、またそれを二番目と三番目の子が真似してところかまわず「くっさい! くっさい!」と騒ぐので、そうしたことでも二次被害的に困っていた。


 なんだかもう、自分から何かそういう汁が出ているのか、汗に混じって、加齢臭というかこう、不可逆的に、逃れられない何かが。


 そんな不安が頂点に達した先日、思い立って、実家に自分の洗濯物をまとめて持って帰った。あまりにもどうかと思って夏の間に二枚ほど捨てさえした、その残りのものである。実家のマシンも我が家の前任者と同じ、全自動ではあるがたいがいな年代物で、節水などとは当然無縁、洗濯槽にじゃんじゃん水をため、ひたすらぐるぐる回して洗いまっせ、というタイプのものである。


 はたして、わたしの洗濯物は一度できれいになった。きれいというか、匂いが、まともになったのだ。見てみい、やっぱり水の量とちゃうんけ!? ええ?! 節水はそら大事か知らんけど、あとから手洗いしてたら一緒やろ?! ああ!? わたしは乾ききったエエにおいのキャミソールを握りしめ、一人実家のベランダで竿を相手にブチ切れた。


 それからというもの、わたしは我が家でも節水機能を無視し、ヤツが試算した必要水量を手動でさらに少なくとも2メーターは上げるというスタイルで洗濯を敢行している。次に買い替えるときは二槽式も、本気で検討する。

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