春の死闘、略して春闘・タケノコの巻
さあ、またこの季節がやってきました! チーム灘家VS竹藪・タケノコ連合軍のデスマッチ・シリーズ!! 西・北・東の三地区及び前の庄、奥の庄の二地区から勝ち上がった五十本のタケノコと各地区選出の百七十本のワイルドカードを、灘家のじーさん、ばーさん、ヨメが、ホーム&アウェイ&アウェイ&アウェイでひたすらに取りまくる! なんのこっちゃ!
初荷を見てしまったのだ。一里先の山向こうに住むミヤハラさんが、道の駅にデカいタケノコを出荷しているのを。早くねー?!! うちでは姑が二日前、西地区の偵察に出たが、すでに成長しきった竹たちがさらさらと高いところの葉を揺らしているばかりで、「まだ大丈夫やろ。今年はさぶかったさかい」などと言っていたところなのに。「何も起こっていないように見える間に、すべてのことが起こっているんだ」というのは、村上龍の『テニスボーイの憂鬱』に書かれた一文だが、つまりそれは竹藪とタケノコのことである。
とにかく、これからむこうひと月半は、目についたタケノコを掘っちゃあ食い掘っちゃあ食い、口を開けば「ガレージの脇のタケノコ、明日掘らな塀ごと返されるで」「納屋の裏にも四本ある」と情報交換、パンがなければタケノコを食べればいいのよ、などとうそぶき続けるシーズンに入った、ということだ。
我々チーム灘家は良寛さんのように、竹のために床板を外してやるといったような優しい心は一切持ち合せておらず、常に「売られたケンカ、すべて買う」の姿勢で家屋周りの敷地内に出てきたものを狩るはもちろん、散発的にシャベルを担いで敵陣に突入することも辞さない。台所には米ぬかと特大アルミ鍋とカセットコンロを出しっぱなしにして、いつでも来い、と身構えている。ただ、チーム灘家サイドの悩みは、ここ数年来若旦那(夫)を欠く戦いを強いられていることである。若旦那は実のところ、タケノコにも、地所の管理にも全く興味がないからだ。食卓でもあまりしつこく若竹煮をすすめたり、日曜の昼間、庭で煙草を吸ってぶらぶらしている後ろから籠を背負わせ、
「さあ、行こうか」
と肩を叩いても、最終的には夫婦の不和につながってしまうために今ではもう放擲している。しかしほんとうに、わが宿のはガチでモリモリの竹林なので作業量も半端ではないのだから、少しだって余分に男手が欲しいのだ。しかも今年は豊年ときた。採れた、うれしかった、食った、おいしかった、と思うのはわたしだってもはや最初の三日だけで、あとは延々続くやっつけ仕事のやっつけタケノコ。腐海を巨神兵で焼き払おうとしたトルメキアのクシャナ殿下の気持がよくわかる。我が宿の群群群竹繰り畳ね焼きほろぼさむ天の火もがも。四月十日はタケノコ記念日。それにつけても金の欲しさよ。乙子
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます