　ボインといい、ナインという。

　いや、実際言ったことはない。聞いたこともない。ただ、昔のマンガなどを読んでいると、時々出くわす表現である。古語とでも言おうか、それとも死語の方がいいのか。今では巨乳と貧乳に、とってかわられた。ただ、そういう意味の、そういうことばがあると知ってしまった以上、わたしとしては、あのサリンジャーの有名な小説の題を見ても、

「わたしの話か？！」

と思ってしまうのである。いや、つかまえてほしくはない。それにうちの畑はキャベツ畑だ。フラニーとズーイ？　そういう知合いはいない。あるやろ、もう一つ。ただし原題のまま発音せよ。

　ずいぶん前だが小池栄子が、穴のあいたパンツ（この場合、ズボンを指す平坦音の「パンツ」ではなく、ズボンの下に履くもの）の捨てどきがわからなくてそれをずっと履いていたら、見かねた衣裳係の人から「栄子ちゃん、いい加減それ捨てなよ」と諌められた、という話をテレビでしていた。自分とおんなじだ！！　と思ったわたしは早速夫に、

「わたしこれから似ている有名人は？　て聞かれたら、小池栄子って言う」

と宣言したが、そういう場合の「似ている」は内面的なことではなく外観的なことを言うのだ、と冷たく指摘されたあと全くもって口をきいてもらえなくなったため、十五分後に発言を撤回した。短い命だった。蛇足だが、小池栄子は巨乳というよりボインと表現した方がしっくりくるように思う。彼女の外見がどこか昭和な感じがするからだろうか。

　わたしにはガイジンになることを望んだという過去があり、それはＭＭであり、ＢＢであり、ＣＣであった。みんな、ものすごいデコルテ模様だった。ガイジンはあれが普通、とすら思っていた。ひたすら羨ましかった。翻って、わたし自身のＭＭでＢＢでＣＣな部分と言ったら、「無知蒙昧」で「びっくりバカ」、そして「クローゼットがカオス」なところである。

　しかしながら、冷静になって眺めてみると、一概にそうとは言えないのだった。まず驚いたのはブリジット・フォンダである。丘も谷もない、見渡す限りの平地だったのだ。いるんや！　こんな人も！！　本人もそれがコンプレックスだったようで、後年、豊胸手術を受けたと確か『月刊ロードショー』の記事で読んだとき、そのことにもわたしは驚いた。あのような、決して只今売り出し中などではない、すでにビッグネームとなっているハリウッド女優が、自身のどこかに引け目を感じていただなんて、信じられなかったのだ。アメリカ人は全員自分大好きで自信満々、と思い込んでいた極東の一女子高校生には青天の霹靂だった。同時に、あのブリジット・フォンダでさえ乗り越えられなかった欠点なのだ、いわんやニッポンのパンピー女子においてをや、と我が身を振り返って打ちのめされた。

　しかしさらに時間をおいて、かの国の様子を眺めまわしてみると、でっかいことはいいことだ、とばかり言っているのでもないのであった。ドリュー・バリモアがインタビューで、２サイズダウンの手術を受けたと言っているのを読んだ。アップではない。ダウンなのである。そのうちキーラ・ナイトレイが登場した。『パイレーツ…』に出て何が一番よかったかと言って、毎日メイクさんがデコルテにシャドウを入れてくれるのが最も嬉しかった、とインタビュアーにあっけらかんと話していたが、今もって、キーラはシリコンの世話にはなっていない。そしてパリス・ヒルトンのビデオが流出した。ヒルトン嬢は竿のような身体を晒してなおめっちゃ楽しそうであった。へえ、と思った。結構大音量で。へえ！！　と。

　先日、夜中に流れていたディオールのＣＭを指差して、夫がわたしにこう勧めた。

「かあさん、今度から似ている有名人はて聞かれたら、ナタリー・ポートマン（ただし胸元のみ）、てゆいー！」

「わかったー！！」

　かくてそれは新ネタとして即採用の運びとなった。だがその後一度も、そんなことは聞かれていない。早く言いたいので、誰か尋ねてほしい。しかしこの先どう転んでも三十五より若くならない女にそんなことを尋ねるヤツはいないと思うので、新品のままのネタとともに墓場入り、という可能性が濃厚である。残念無念。