叫べよ同志、裏切者の心意気を


 引越を繰り返し、生まれたところは長岡京であるが、一説によればひとりの人間の人格形成があらかた済んでしまうという幼年期を大阪で過ごした自分を、いちおう大阪人と見做すとする。



 大阪名物と言えばたこ焼きであるらしい。誰が決めた。



 わたしはたこ焼きが嫌いである。いうなれば造反者である。




 うまいか? たこ焼き。うまいまずいのはなし以前に、ソースの味しかせんだろう。卵と粉とソースが食いたいなら、お好み焼きがあるではないか。たこが食いたい? ならば海鮮ミックスモダンを注文したまえ。烏賊もホタテも入っている。あれは旨い。それなりに値段も張るが、納得するに十分なクオリティである。



 軟質かつ球状のものを爪楊枝で食べろというのもわからない。イソップに、鶴と狐という話がある。狐はある日鶴を夕食に招き、浅い皿によそったスープを振る舞う。鶴のくちばしでは食べられない。後日狐は鶴の返礼を受けるが、鶴が出してきたのは頸の長い壺に入ったスープだった。



 この寓話が我々に教えるのは、相手の便利を無視した食器でものを供するという行為が、報復を呼ぶに足る立派な厭がらせだということだ。「食器」にはカトラリーも含まれる。諸兄は爪楊枝一本であのくにゃくにゃが食べられるか? 口に運び果せずに、大事な一張羅を汚したことが一度もないか?



 さあ同志よ、裏切者よ、手を取り合って立ち上がり、南堀江で十三で、喜連瓜破で共に叫ぼう。



 出汁に浮かんだ明石焼の正義を。


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