第17話

ジャマイカの宿にしばらく滞在することとなった1人と2匹。


イルカのアンクは役割を終えたため、今度は自分の兄弟を探すというが、別れ際、妙な言葉を残した。


朝食のパンを食べながら、ミチキが呟く。




「……アンクの言ってた、でかい影って、何かな」




 アンクは、全長20メーターはある、巨大な影をエコーで捉えた、と言っていた。




「そんな生物、メガトロンくらいしかいねーだろ。 それか、ネッシー?」




 どちらも、存在自体が曖昧な生物である。




「なーんか、嫌な予感がするんすよね」




 トオルが、パンにマーガリンを塗りつけながら言った。




「……何だよ、嫌な予感って」




「だって、いわくつきの沈没船でしょ? 引き上げたりなんかしたら、バチ、当たるんじゃないすかね」




 友恵が、テーブルを手のひらで叩く。




「っざけんな! ある訳ねーだろ。 天罰なんて、私は信じねーし、今更引き返せるかよっ」




 静まり返る食卓。


その日は、メーカーから浮き輪が届く日で、トオル、ミチキはそれを設置する役目をおっていた。




「お前ら、腹くくれよ」




「……」
















 輸入船がポートロイヤルの船着き場に到着。


トレーラーで物資を浜まで運び、大人数人がかりで海に浮かべる。


トオルとミチキが端と端を持って、海の中へと潜


るが、途中、引っかからないよう、浮き輪は折り畳んだ状態にし、船に近づいたらそれを広げる。


浮き輪の重量は相当なものだが、海の中なら殆ど関係ない。


2匹は、無事に船に浮き輪を設置することが出来た。


そして、ポンプを使って空気を送り込むと、浮き輪が膨らみ、船が浮上し始めた。


船を住処にしていた魚が慌てて逃げ出す。




「出たっ!」




 友恵が叫んだ。


海面からマストが飛び出し、徐々に船全体が姿を現す。


噂を聞きつけたギャラリーも喝采を浴びせる。


中には、いわくつきの沈没船が引き上げられた事に、複雑な表情を浮かべる者もいるが……


とにかく、船全体が引き上げられると、船着き場の漁船を借りてきて、浮き輪に付いているロープを引いて沖まで運んだ。




「……すっげぇ」




 目の前に、巨大な沈没船。


船体には、トミー号の文字。


友恵は、かぎ爪ロープを船のふちに引っかけ、足をかけた。




「ちょ、危ないですよ!」




 メーカーの人間が駆けつけるも、平気平気、とあしらう。




「よっ」




 そのまま船の腹を伝い、よじ登る。


ふちに手をかけると、中へと飛び込んだ。 


降り立つと、床面からミキリと音がし、今にも崩れそうだ。




「こいつは、ひでーな…… 補修は無理か?」




 最悪、展示物にするしかないかと、そんな考えもよぎる。




(金品もねーし、残らずサルベージ船に引き揚げられたか?)




 階段を降りて、船内の倉庫と思しき扉を開けた。


すると、古ぼけた壺があることに気がついた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る