第18話

「何なんだ、コレ……」




 壺には栓がされており、中身は分からない。


他に金目の物があれば、別に気にならなかっただろうが……


とにかく、友恵はそれをつかんで船を後にした。
















 引き揚げた沈没船が修復可能か、現地の人間に打診してもらう為、友恵はポートロイヤルの造船所にやって来た。




「損傷の状態によりますけど、とんでもない金額になると思いますよ」




 造船所に勤める、舟大工の黒人が言う。




「金の心配はいらねーよ。 現地の人間でも、よその専門家でも、かき集めてくれて構わねーぜ」




 そう言い残し、小屋を後にする。


トオル、ミチキを探して砂浜の方まで戻って来ると、床に腰掛けてヤシの実を飲む2匹を発見した。




「あんまうまくねーな、コレ」




 しかめっ面でストローを咥えるトオル。


ミチキが頷く。




「水族館のカクテルのが美味しいよね」




「お前らーっ、戦利品だぞ」




 友恵が手に持っていた壺を掲げた。


2匹が顔を見合わせる。




「それだけ?」




「さーて、何が入ってっかな」




 2匹のいる砂浜まで来ると、おもむろに栓を掴む。


力を込めると、栓は簡単に抜け、ぽんっ、という音を立てた。


壺を逆さまにして、中身を出すと、ヌルヌルの得たいの知れない塊が出てきた。




「何だこりゃ、腐ったゼリーか?」




 しかし、よく見ると違う。


ヌルヌルには8本の触手があり、こちらを窺うような目が2つ。


そう、タコである。




「……ゼエ、ゼエ。 だ、誰…… 眠りを、さま…… ゴフッ」




「この船の持ち主の子孫の友恵だよ。 おめー、大分年いってんな」




 壺の中身は、かつてトミー号でペットとして飼われていたタコ。


年齢は数百才で、生きているのが奇跡に近い。




「ゼエ、ゼエ…… 近い、内…… 厄災…… ゴフッ、3匹の、禁魚……」




「え、なんてー?」




「ち、近い、内…… 厄災、ゼエ、ゼエ…… 3、匹の…… 禁、魚……」




「小っさくてぜんっぜん、聞こえねーし」




「ち、近い、内! 厄さ…… グハアアアアアーッ」




 声を張ろうと力を込めた瞬間、脳内の血管が切れ、タコはそのまま息絶えた。




「えっ、ちょ……」




「めっちゃ重要なこと言おうとしてなかった?」




 ミチキが、動かなくなったタコを棒で突きながら、呟いた。










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