第12話

「イルカ、すごかったね!」




 カップルが興奮気味に喋りながら、会場を後にする。


イルカショーは、まさに圧巻の一言であった。


アイドルの曲に合わせ、ジャンプするイルカ。


その後は吊り下げられた玉にハイジャンプを決めて、口づけ。


たまに届かないも、それはご愛嬌。


客席はドッカンドッカンうけた。




「……田舎に帰るか」




「……そうだね」




 打ちひしがれ、帰ろうとした2匹だったが、あることに気付く。




「って、まだ帰っちゃだめか」




 イルカを人間の姿にして、連れて行かなければならない。




「え、やるの?」




「まあ、一応な」




 プールのふちに立つと、中をグルグル泳ぐイルカに声をかける。




「あ、あのー」




「……」




 しかし、まるで聞いちゃいない。


泳ぎ足りないのか、ビュンビュンスピードを出すイルカ。




「すーいーまーせーんー」




 猛スピードで泳ぐイルカには、す、しか聞こえていない。


トオルは、おもむろに人魚姫の化粧水を取り出すと、プール内に滴下した。


みるみる液が広がり、しばらくして、中のイルカがみな、人間に変化した。




「がはっ、うぶっ」




 じたばたと溺れるイルカたち。


2匹は、無表情でその光景を眺めていた。
















「ぜえっ、ぜえっ…… がはっ」




 どうにか陸に上がることが出来たが、みな溺れる寸前であった。




「んでねー」




「んでねー、じゃねーよっ!」




 一匹のイルカがキレる。




「何考えてんだ、てめぇ! こっちは人間になるのは初めてなんだ、殺す気か!」




「話聞いてもらえなくて、ちょっと強引な方法使ってすいません。 イルカさんに、相談があります」




 ペンギンは、話し始めた。


自分たちは、ある飼育員に、イルカを連れてくるよう頼まれた。


理由は、イルカのエコーを使って、カリブ海に沈む船を探し出すこと。




「協力してくれませんか?」




「メンバーが欠ける訳には……」




 一匹のイルカがそう呟いた時、その中のリーダーと思しきイルカが肩を叩いた。




「行けよ。 願っても無いチャンスだろ」




「……イシュトさん」




 このイルカ、実はカリブ海出身で、兄弟と離れ離れになっていた。




「その計画にゃ、アンクが協力する。 品川から海に飛び込んで、そのままカリブ海に向かう。 合流は向こうでも平気か?」




「ありがとうっす! したら、合流する場所と日にちだけ、決めちゃいましょ」




 トオルはスマホを取り出し、友恵にかけた。




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