第11話

トオルが持っているのは、ローションである。


さっそく2匹はローションを体に塗り、カーリングのストーンみたくして、滑りながら改札を通過。


その勢いのまま、階段を駆け上がり、ホームに到着すると、電車の扉が閉まる直前で滑り込むことに成功。


電車が発車すると、捕まるところがないため、電車内をツルツルの体で行ったり来たりする。




「あ、ペンギンだ」




 たまに子供に注目されるも、他の人らは見向きもしない。


電車内を転がる空き缶、くらいの認識である。


そんなことをしている内に、品川に到着した。




「おい、トオル、ここで降りっぞ」




「了解」




 例のごとく、滑りながら階段を下りて改札をくぐると、品川アクアパークと書いてある方向へと向かう。


そして、館内の前までやって来た。




「そういえば、入るのにお金いるんじゃない?」




「……とりあえず、行ってみようぜ」




 水族館の自動ドアをくぐり、入場ゲートまで行くと、案の定、係員に止められた。




「チケットを拝見します」




「俺ら、お金持ってないんすけど……」




 係の女性は、うーん、と困った表情になる。




「チケットがないと入場できない決まりなんですよねえ」




 分かりました、と一旦その場から離れ、どうしようかと話し合う。




「どうしよ。 ここで展示させてくださいって言う?」




「いや、間に合ってんだろ。 それだったら、俺らの特技、アピってみっか」




 トオルは、再度女性の所に向かうと、こう提案した。




「あの、俺らダンス、踊れるんすよ。 イルカさんのショーの前座として、使ってくれないっすか?」




「ダンス? ちょっと面白そう! ちょっと待っててくださいね」




 館内の奥へと消えゆく後ろ姿を見て、ミチキが言った。




「うちの飼育員とは偉い違いだよね」




「おしとやかっつーか…… 海賊とはちげーな」
















 しばらくして戻ってくると、女性が戻って来た。




「あなたたち、すぐ出番よ。 イルカのショーがあと30分後に始まるから」




 いきなりかよ、と思った2匹であったが、それを承諾。




「とりあえず、曲でも流してくれれば、アドリブで適当に踊るんで」




「すごい、2人ともプロね!」
















 イルカのショーブースの客席は、既に満杯。




「すげえ、俺らのダンスを見に、こんなに人が……」




「……だと良かったけどな」




 とにかく、こんなに人前で踊れるとは、緊張より、誇らしい気持ちが2匹の中で勝っていた。


そして、舞台が暗くなると、アナウンスが入る。




「まずはペンギン・ショータイムです!」




 ペンギン? と会場がどよめくと、軽快なポップソングが流れ、ミチキがプールのふちに登場。


ダンスダンスレボリューションで体得した、矢印ダンスを披露する。




「上 左 上 右 星 上」




「なにあれー」




 パシャリ、と客の何人かが写メを撮る。


そして、曲が間奏に入り、ベースのリズムに合わせ、トオルがブレークダンスを踊る。


すると、途中からミチキも一緒にブレークダンスを合わせて踊り始めた。




(ミチキ、お前踊れんのかよ!)




 ミチキのダンスの才能に驚きつつも、前座は終了。


パラパラ、と拍手が起こる。




「では、続いて本日のメインショー、イルカ with リトルクリーモンスターによる、ライブパフォーマンスです!」




 人気アイドルユニットの登場で、ペンギンの存在はかき消された。


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