第10話

スマホを操作するジェスチャーを取りながら、トオルは言った。




「話終わったら教えて下さいっす」




「おめえらっ、ちゃんと話聞かないと、私泣いちゃうぞ?」




 泣くなら勝手に泣けよ、とか血も涙もないことを考えるも、分かりましたよ、と姿勢を正す。




「まあ、耳には入ってきましたよ。 で、イルカを仲間にするって、どうやって?」




「さすがトオル。 おめえがこの前使ってた人魚姫の化粧水あんだろ? あれをイルカにかけて、品川水族館から脱出させちまおうって思ってんだけど、効力が短すぎる。 だから、この本に書かれてる改良版を作ろうと思ってんだ」




 友恵がカウンターの上に置いたのは、古めかしい一冊の本。


ホコリをかぶっていて、ところどころ日焼けしている。




「こいつによれば、人魚姫の化粧水に、マンドラゴラっていうキノコを加えることで効力が3分から24時間まで持続するって書いてある。 で、マンドラゴラがいくらで売ってんのか、ネット通販で調べたところ、超高額で売買されてることが分かった」




 その値段、実に100万円。


キノコにそんな値段払うやついるの? って感じである、


それはともかく、ペンギンを売って金を稼ごうと考えたのには、そういった経緯があった。




「ちょーっと待ってくださいね」




 トオルは、バーカウンターの隅にあったノートパソコンを使って、検索を始めた。




「攻略サイトによれば、わざわざマンドラゴラを使わなくても、ハバネロソースで代用できるって書いてありますね」




「そんなゲームの攻略サイトみてーなのがあんのかよっ!」




 思わずツッコミをいれた友恵だが、ハバネロソースならそこら辺のスーパーにも売っている。


こうして、改良版人魚姫の化粧水を手に入れ、2匹は水族館を後にした。














「じゃ、ちゃんと連れて帰れよー」




 水族館の扉を押し上げ、2匹を外に出すと、手を振って見送る友恵。




「何であいつ、ついてこないんだろ」




 歩きながら、ミチキがぼやく。




「知らね。 それより、イルカさんに会えんぜ!」




 友恵の夢なんてどうでも良かったが、憧れのイルカに会えることに興奮するトオル。


墨田水族館から品川水族館へは電車で向かうことになるが、最初の関門が立ちはだかった。




「……どうやって、あの改札抜ける?」




「ギリギリ、いけっと思うんだけどなー」




 トオルが、恐る恐る改札へと向かう。


すると、ブブーッ、という音ともに、ゲートが閉まる。




「がはっ」




 トオルは、顔面を強打して、後方へと弾き飛ばされた。


ギリギリ、顔がセンサーに反応して、くぐることができない。




「トオル、もう電車来ちゃうよ!」




「首があああああっ……」




 首が無くなったかと思ったトオルであったが、まだついていた。


ヨタヨタと立ち上がると、ポーチからあるものを取り出す。




「これしかねーな」






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