第5話
「……えっ、ブレーキダンス!?」
「そうそう、信号が赤になったら踏まなきゃいけないあの…… って、何でやねん!」
ブレークダンス。
トオルは聞いたことがあった。
ストリート系のファッションに身を固めた男らが、アクロバティックな動きをする挑発的ダンス。
それが、ブレークダンスだ。
「アシカさん、できるんすか?」
「まあ、見てな。 手拍子頼むわ」
トオルは言われるがまま、手拍子を取る。
エイトビートのリズムに合わせ、アシカが首を左右に動かす。
そして、
「よっ」
ダイナミックにアシカが体を反る。
その状態で、静止した。
「……アシカさん?」
「……話、かけんな」
プルプルと体を支える腕が震える。
そして、静止が解除された。
「ぶはっ、これが、ブレークダンスだ!」
「……」
今アシカが見せたのは、ブレークダンスの構成要素の一つ、フリーズ。
ダンスのシメに使われることの多い技だが、トオルの思い描いていたものとは違った。
クルリ、とアシカに背を向けると、トオルは水槽から飛び降りる姿勢を取った。
「オイオイオイ! 何だよそのリアクション、もっと驚きおののけっての!」
「いや、ちょっと思ってたのと違うかなーって」
「……そりゃ、俺だってあんな風にカッコ良く踊りてーけど、足ねぇんだよ、俺」
ブレークダンスは手を地面について片足を前に出すなど、そういった動きが多い。
その為、ヒレしかないアシカには無理な芸当であった。
が、自分には出来なくても、ペンギンにならできるとアシカは言う。
「俺にゃ出来ねぇけど、お前なら見込み有りだ」
「見込み有りって、ブレークダンスなんて絶対覚えらんねっす。 自信、あります」
致命的な欠点として、ペンギンは物覚えが悪い。
手取り足取り教えても、3歩で忘れてしまうのがニワトリとペンギンであろう。
「頭で無理なら、体で覚えりゃいいのさ。 そのチューブ貸してみな」
のっそのっそとアシカがトオルに近づくと、突然、手にしていたチューブをむしり取る。
そして、中身を床にぶちまけた。
「ちょ、勿体な」
「この上を歩いてみろ」
「……」
滑るだけだよなー、とトオルは思ったが、言われるがまま、ローションの撒いてある床を歩く。
「……うわっ」
ツルツル滑り、バタバタとその場で足を動かす。
「その動きだ。 そのアタフタした動きが、ブレークダンスだ」
「えええっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます