第6話
ローションを使ったダンスの練習に励むトオルだったが、一筋縄では行かない。
顔にあざを作りつつも、とうとう朝を迎えた。
「くそっ…… もう、時間がねぇ」
昼間は通常業務があるため、残された時間はその日の夜中しかない。
トオルは、ミチキに言った。
「俺はギリギリまで練習すっから、もし間に合わない場合は、お前が頼む」
「ま、マジで……」
昼間の業務が終わり、時刻は22:00。
「代役なんて、絶対無理」
ステージの上でのダンスなど、考えただけで胃酸がせり上がってきそうだと、ミチキは思った。
フラフラとした足取りで寝床に戻ろうとすると、目の前に一匹のペンギンが現れた。
「こんばんわ、ミチキ」
「……へ?」
そこにいたのは、メスペンギンのカオルコであった。
「ミチキ、今夜空いてる?」
メスペンギンはディーンに独占されているハズ、とミチキは思ったが、目の前には間違いないなくカオルコがいる。
「も、も、もち」
「クスッ、落ち着いて。 じゃあ、こっち来て」
手を引かれて、裏の岩陰に向かう。
これから何が始まるのかと、ミチキが胸を高鳴らせていると、カオルコが言った。
「連れてきたわよ」
「お前はもう下がっていいぜ」
上のフロアのカクテルブースから、声がする。
見上げると、そこには自分よりも一回り以上大きい、マゼランペンギンのディーンがいた。
カクテルブースから颯爽と飛び降り、ミチキの前に立ちはだかる。
唖然としていると、ディーンが口を開いた。
「お前ら、ダンス大会とやらにでるつもりらしいな。 俺様の王国で、勝手なマネはさせねーぞ。 棄権しろ」
「棄権……」
ディーンに逆らうことはできない。
力では間違いなく適わないだろう。
捻り潰されるのがオチだ。
それでも、ミチキは退かなかった。
「……嫌だ」
「だったら、そこのカオルコをやるよ。 お前、モテるためにダンス大会に出たいんだろ? 勝てるか分からねぇ大会にでるより、話が早ぇだろ」
一瞬、揺れそうになったミチキだが、それじゃ意味がない。
自分の力で勝ち取ってこそ、意味があるのだ。
「くそ食らえ、だ」
「……後悔するなよ」
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