第4話
手土産かぁ、とトオルが独りごちていると、アザラシが言った。
「まあ、手土産なんて本当はいらねーのかもだけど、俺が苦労して覚えた技をタダで教えるのもシャクだしな」
確かに、それはシャクである。
それに、彼らは同じ魚で、同じ館内に展示されている仲間同士ではあっても、アザラシとペンギン。
その隔たりは、けして無くなりはしない。
とか、アザラシが考えてるかは不明である。
「とりあえず分かった。 明日また来るわ」
手を上げて軽く挨拶をかわし、ペンギンが水槽から降りようとした時だった。
そこが断崖絶壁であることに気づく。
(やっべ! 上がって来たはいいけど、降りらんね!)
地上からの高さは約3メートル。
人間ならば、着地の際足首を捻って、ダサい思いをする程度の高さであるが、ペンギンの身長は人間の3分の1。
体感的には、東京タワーから飛び降りる位怖い。
「いや、そこまでいかねーけど…… なあ、ミチキ、聞こえっかー」
下であぐらをかいていたミチキが立ち上がり、右手を上げる。
「一ヶ月くらい更新してなかったくせに、良く俺の名前覚えてたな」
「……まあ、キャラは忘れちまったけどな。 俺がジャンプしたら、お前下で俺をキャッチするか、無理なら方向変えてくれ。 よっ」
「えっ、ちょっ」
勢い良く飛び降り、時速70キロ位の速度で落下。
ミチキは腹をくくり、下でトオルをキャッチすべく、手をかざす。
衝突まで、後3.2.1メートル……
ミチキの目の奥で、キラリと何かが瞬いた。
「受け流し!」
トオルの落下方向が、90度曲がった。
落下してきた体を受け止め、無理やり向きを変えたのである。
ローションでツルツルの体は、そのままダストボックスへと突っ込み、豪快にストライクを決めた。
「おらあああーっ、てめぇら何遊んどんじゃあああーっ」
「ふぅん、手土産ねぇ。 これなんてどうよ?」
飼育員の生田知美 (漢字忘れた)にしごかれた後、事情を説明。
水族館の土産コーナーで、手土産を探す事となった。
「ちんあなごの抱き枕っすか。 アザラシさん、気に入りますかね」
「んー、だったらコレ? ダイオウグソクムシのクッキー」
「……これにしますか」
トオルは、じゃがりこを手に取り、レジに並んだ。
「おまっ、そんな定番のでいいのかよ」
「ダイオウグソクムシのクッキーよりか、マシじゃないすかね」
「そうそう、こういうのでいいのよ。 仮に、ダイオウグソクムシのクッキーでも持ってきた日にゃ、どーしよーかと思ったもんだが」
じゃがりこを口に運びながら、アザラシは言った。
「そんなセンスない土産、絶対選ばねっすわ。 で、ダンスの方は?」
「オケオケ、約束だからな」
じゃがりこを傍らに置き、アザラシは腕を前に持って、ポーズを取った。
「何すか、それ」
「今からお前に伝授するのは、ダンスはダンスでも、一味違うダンス。 ブレークダンスだ」
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