第3話

「ダンスっつったら、アシカさんだろ!」




「……マジであいつんとこ、行くの?」




 アシカは館内では芸をすることのできる唯一の生き物。


しかし、ペンギンはおろか、飼育員のことまで陰で馬鹿にしていると噂が立っている。


ミチキは、胸の前で腕を絡ませ、言った。




「正直、絡みたくないわ」




「でも、そうも言ってらんねーし。 優勝、狙えないぜ?」




「……」




 渋々納得したミチキをつれ、その夜、2匹は水槽から飛び出した。














 アシカブースは、水槽の中央に円柱が建っており、昼間は常にアシカがその周りを泳いでいる。


今は夜中のため、柱の上でアシカは眠っている。




「アシカさーん」




「ンガアアアア……」




 水槽の外から呼びかけるも、聞こえるのはンガアアアア、ンガアアアア、という寝息のみ。




「仕方ないな」




 ペンギンは、手にしたチューブの中身を体に塗りたくった。


そして、助走をつけ床面を滑り、更に水槽の表面を滑るように駆け上がった。




「おお、すっげ」




 そのまま勢い余って、アシカのいる円柱の上面に着地した。




「アシカさん、起きて!」




 ヒレでピシパシとビンタをする。


すると、寝ぼけ眼のアシカが頭をもたげてキョロキョロした。




「こ、ここは…… 僕は確か、トラックに引かれて……」




「大丈夫です。 別に、車に引かれて異世界にやってきた訳ではありません」




「……あれ、君は、ペンギン?」




「イエス、アイドゥ!」




 イエス、で腕を横にし、アイ、で腕を縦に、最後のドゥで腕を頭上から振り下ろす。




「……何ですか、それは。 しかし、ペンギンが何故こんな所へ? 変な振り付け無しで答えて下さい」




「実は、ダンスを教えて頂きたいんですが……」




「ふ~ん、何の手土産も無しに?」




「えっ、手土産!?」

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