第5話

「なるほど!なつきくんらしき子を見つけたわけか!」


と、シレンは顔を輝かせた。

みすずはオレの書いた翻訳と現本を見て驚愕している。


「文也って、霊感ある方?」


みすずはオレを見て聞いた。


「ない」


南森小学校は、結構出る部類らしいが、オレは見た事がない。


「まぁ、霊感はこれから上がっていくと思うよ。でも、霊読術は持ってるみたいだね」


霊読術……?


「あぁ、霊読術ってのは、霊や妖怪の書いた文字が読める力だよ。

生身の人間でこの文字を読める人間はあまりいないんだ」


シレンさんが少し目を細めながら言う。


「コックリさんってあるだろ?

あれはなんで、十円玉と五十音表が必要だと思う?」


たしかに。学校にあるものなら、もっとうってつけのものがあるはずだ。


チョークとか……鉛筆とか。


「あれは普通の人間が、妖怪の文字を読むことが出来ないからなんだ。

占いで人間を釣るというのに、肝心の占いが伝わらないんじゃ話にならない。ならば、人間自身に文字を用意させた方が文字も書かなくていいし、人間にも伝わるし効率的だろ。

こっくりさんは低級霊なりに、人間の体にとりつく方法を必死に考えたってわけさ」


『家でご飯を作るより、スーパーでお惣菜を買った方が効率的だろ?』と言うふうに言うシレンさんに、少し恐ろしさを感じた。


人の良さそうな男性の格好だが、その正体は人喰い妖怪かも知れないとも思えたからだ。


みすずはそれを勘づいたようで、本でシレンの頭を叩いた。


「こらっ。何子供怖がらせてんのよ」


シレンさんは頭を抱えている。

それを尻目に、みすずさんはオレと同じ目線になった。


「で、なつきくんのためにこれを翻訳してるようだけど、それがなんになるの?」


みすずの瞳がこちらを捉える。

紫色の宝石みたいだが、その眼光はどこか猫に似ていた。


たしかに、これは、オレが勝手にやってる事だ。


「なつきくんとかいう少年に渡したところで、捨てられるかもしれない。

何も意味をなさないことをわかっていながら、それでもお節介をかこうとするの?」


その視線はとても真剣だ。

まるで、オレを品定めしているような。


「それでも。誰かのために書いた物なら、その誰かに読んでもらいたいに決まってる」


みすずは少しはっとした顔をした。

みすずはため息をつくと、にっとほほえみながら、『ハッピー夏日記』を手に取った。


みすずの笑顔を、この時初めて見た気がする。それは、ちゃんと女性らしい優しい笑顔だ。


「文也くん顔赤くなってるよ」


と、シレンが頬をツンとつつく。


その時に、顔がとても暖かくなるのを感じていた。

みすずがこちらを振り返る。


「シレンも文也も!この本に右手を置いて。


妖書、ただ妖怪が書いた本だと舐めないでよね」


みすずの瞳が水色になるのを感じる。

すると、本も水色に光出していた。


その光は、部屋中を侵食していった。

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