第4話

「あれは間違えるだろ……」


オレはぼやきながら、鈴を少しいじった。

三毛猫の形をしたとても可愛らしい鈴。あの妖書取扱書店に行くための特別な”鍵”だ。

あの隙間に向かって鈴を振ると、またあの鳥居が出てくるとか。

合法的にあの書店に行けるようになって、とても嬉しい。


そもそも、あの男性のような着物を着て、さらし(辞書で調べた)をつけて、なおかつ声も低かったらそりゃ男と思うだろ……。

みすずにまたガツンと言いたい気持ちになった。

本人のコンプレックスっぽいから言わなかったけれど。


自由帳に鉛筆でメモを書く。

まず、あの日記の内容から、ターゲットはなつきという小学生。

Wiiスポーツをやってたことから、Wiiを持っていて、しかも片親。

南森支店と言うことから、なつきが通っている小学校は今オレがいる「東鶴城小学校」か「南森小学校」。そして鍵っ子。

これぐらいしかわからないな……。


「おい……金次郎本読んでないぜ…」


うるさい。こっちは翻訳となつきくん探しに忙しいんだ。

校庭でドッチボールでもしてこい。教室で騒ぐな。


「二宮ー。二宮っ」


オレの机にとんと人が来る。

嫌なやつではないが面倒な奴が来た。

ハナブサだ。こいつはいい奴な分、めんどくさい。


最近転校してきた、明るく元気で笑顔が眩しい男子だ。

誰彼構わず声をかけることができるオレとは違ったいい子。

サッカーが大好きな少年。そんな子がオレとなんで話したいんだろうか。


「うんっ、噂通りに目つきが悪いんだね!」


…ひとつ難点を言うなら、ハヤブサはKY《空気が読めなさ》すぎる。

ある意味毒舌なんだな。


「なんだよ?わざわざ人が読書中に話しかけてまで悪口?」


「違うってー!俺は二宮とも仲良くなりたいだけなんだって!」


ハヤブサ。お前人気者なのに、どれだけ暇人なんだ。

正直迷惑だと言おうとした時に、ふと名札が目に入った。


他の奴がまともにつけていない名札を自己主張したいだか、つけている名札。

インクが滲んでいるちょっと読みづらい名札。


英 夏樹。その上に書かれていたカナは。


『ハヤブサ ナツキ』



「ナツキってさー。お母さんいたっけ?」


と、俺はそっと返してみる。ハヤブサはちょっと苦そうな顔をした顔をした後、笑って言った。


「ママは……ちょっと旅行中でさ!いないんだ」


最近引っ越してきた転校生。その理由はおそらく、母親と父親の離婚だろう。

そっと父さんの机で読んだ書類を思い出した。

すると、ハヤブサは得意げな顔で言った。


「俺、昨日Wii スポーツリゾートとぷよぷよ買ってもらったんだ!

ハヤブサもどう?」


ハヤブサはWii持ちのようだ。

…確かめる必要があるかもしれない。


「明日空いてる?」


「ちょうど、ダイキもソラも塾なんだぞ!だから空いてるよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る