第3話
本棚の向こうには、確かに女の子がいた。
それも、着物におかっぱ頭という、オレがよく知っている座敷わらしの格好。
あれが凛という座敷童子だろうか?
「あれ、題名違うんだ」
みすずさんが紙を見て言った。あれが新作だろうか。
オレが気になったのは、あれはチラシの裏だ。
今日、母さんが特売日をチェックした時に見た文面とそっくりだ。
あの座敷童子はこの南森街に住んでいるのか。
「新しい作品なのです!名付けて『ハッピー夏日記』なのです!」
なるほど。新作のエッセイも書いたのか。
「
「なつきくんとの思い出は『凛幸日記』じゃまったく足りないのです!
それに…。なつきくんにも読んで欲しいのです」
「それは難しいなぁ。人間は妖怪や幽霊の文字を読むことができないからね。
なつきくんっておそらく人間 でしょ?」
オレは本棚から転げていた。
みすずと座敷童子…凛がオレを見下ろしている。
「みすずさん!これ妖怪の文字なの?」
と、さっきの『凛幸日記』をみすずに見せた。
「そうだね。だから君読めないでしょ?
つまらない場所だとわかったらさっさと帰りな…」
「『ことしにあったのは、男の子とお父さんのお家。
男の子は凛と遊んでくれた。名前はなつきくんっていうの。』!!!」
読んだ本の一節を高らかに叫ぶ。
すると、みすずさんは驚いた顔をして、凛はオレをキラキラした顔で見つめている。
「君、凛が書いた日記読めるの?」
「えっ…えー…ちょっと混乱してきた。
シレン、状況説明お願い」
みすずさんはとにかく困っていたらしい。
オレと一緒に隠れていた男の人…シレンはひょこっと出てくる。
「ようするに、この子は妖書を読む才能があるってことじゃないですか?
ねっ、君読めるんでしょ?」
と、シレンはオレに向かい合った。
オレはコクっとうなづいて見せた。
「この子が翻訳すれば、なつきくんも読めるようになるんじゃないですか?」
みすずさんはまたこいつ余計なことをと言いたげにシレンを見た。
凛さんはオレの手を握りしめた。
「お願い!なつきくんに読んでもらいたいの!」
………
「なんでこの人間妖怪の書いた文字読めるのー……。下手に神隠しやったら、私が怒られんだってばぁ……」
机に突っ伏しながら、みすずさんは声を出していた。
机に出てきた赤い髪が綺麗だ。
「まぁまぁ、凛ちゃんも喜んでるしいいんじゃないですか」
まぁここには合法的に行けるようになったらしい。
ここの本を合法的に読めるし、この凛幸日記もとてもきになる内容だ。
「そういえば君名前は?」
シレンの方がそっと聞いてくれる。青い瞳がとても綺麗だと感じていた。
「二宮…文也。二人は?」
オレはそっと上目遣いをした。大人相手に上目遣いをしたのは正直初めてかもしれない。
「私は
みすずがそっと机をから顔をあげて答えた。
正直、とても美しい男の人だ。一瞬、女性かと見間違えてしまう。
「おれはシレン。この書店の店員だよ。シレンでいいよー」
シレンはニッと笑った。正直、シレンは妖怪にまったく見えない。
本当は人間なのだろうか。
「よろしく…。シレンと…みすず兄さん」
みすずはその言葉を聞くと、机をどんと叩いた。
そしてもっと落胆してしまう。
シレンはちょっとニヤニヤとして、みすずを見た。
「まぁ仕方ありませんよ。今度洋服を着るのはどうです?」
「今度買いに行こ。本当に今度買いに行こ」
シレンはオレに向き合って言う。
ちょっと困ったような目だ。
「ごめんね。文也くん。
みすずさんは女性なんだ」
……は?
女性?
「何言ってんだって顔してるよね?私は女!
心は女性って言うものじゃなくて、本当に女!」
みすずは着物のから、何か布を取ると、それが明らかになった。
それは、母親や先生としか見たことがない、胸の膨らみだった。
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