第2話
中は、本当に本ばっかりだった。
しかし、見たことのない本ばっかだ。
オレはそっと本の一冊に手をかけた。『凛幸日記』というものだ。
『ことしにあったのは、男の子とお父さんのお家。
男の子は凛と遊んでくれた。名前はなつきくんっていうの。
なつきくんが宿題を終えて、一緒にウィーっていうゲームをした。
凛は白い棒持てなくて、なつきくんが遊ぶのを見てただけ。
ウィーっていうゲームだと、なつきくんは野球選手にだって格闘家にだってなれるんだ。
夕焼けが沈む頃、お父さんが疲れた様子で帰ってきて、料理を作った。
お父さんは料理がとっても下手で、全部黒い料理になっていた。
だけど、なつきくんもお父さんもニコニコになっていた。
凛はとても嬉しかったの』
「それ、きになるの?」
いつの間にかいたのだろうか、みすずさんが後ろにいた。
もう何もかも吹っ切れたのだろう。苦笑いをしている。
「これ、エッセイですか?」
「あー、敬語じゃなくてええよ。
今の人間世界ではこういう随筆エッセイっていうんだ」
よく見たら、オレが持っているのは最新刊のようだ。
凛幸日記は他にもたくさんある。
「これ、凛っていう座敷童子が書いたんだ。あと30分で来るから、帰らない?」
「ちょ!ちょっと待てよ!座敷童子がこれを書いたのか?」
みすずさんは、うーんと考えて、こんなことをこぼした。
「人間以外にも、みんな文学を趣味にしている奴はいるよ。
いや、むしろ人間よりも多いかもしれない。妖怪みんな暇だからね。
あの有名な文豪の霊は遺作のあとも、新作を生み出し続けているし。
そんな人間以外が書いた文学作品を『妖書』といって、私たちはこれを売買してる」
なんということだ。じゃあこの本は全て妖怪が書いた本なのか。
普通に売っていてもおかしくない本ばっかりだ。
「って…私ミスった…」
「みすずさーん、みすずさーん。凛ちゃん来ましたよー」
さっきの男の人の声が聞こえた。
みすずさんはそちらへ向かうと、男の人がオレに向かってきた。
「よかったら、その本の作者を見ていくかい?あと、おれにも敬語じゃなくていいよ」
とこっそり、本棚の後ろに隠れた。
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