第2話

 彼女が着ている制服には見覚えがあった。


 ここら辺はそれほど都会とは言えない場所の割に何故か学校が密集していて、5キロ圏内には大学は1つしかないものの高校と中学はそれぞれ3つあったはずだ。


 男子の制服のなんて中学も高校も学ランのボタンだとかブレザーの僅かな違いぐらいしかないが、女子の制服はどこも個性豊かで違いなんて一目で分かる。…まぁ違うってことが見てすぐに分かるってだけでどこの学校かまでは正直あんまり知らないのだが。


 しかし彼女が着ている服はすぐに分かった。ここら辺で一番有名な中高一貫女子校、いわゆるお嬢様学校の制服だ。この子が着てるのは中等部の制服…だったはず。


「えっとー………何ですか?」


 落とした財布でも届けに来てくれたのか?と思ってポケットを確認するがちゃんと財布は入っている。


「ここ、あなたの家よね?」


 腕を組みながらこちらを窺う様に尋ねてくる。


「そうですけど…?」


 お嬢様という属性に気圧されて女子中学生相手に敬語になってしまう。

 髪の色は少し茶色で長さはミディアムといったところだろうか。身長は160㎝ぐらいで、華奢な体型。スカートからわずかに覗く膝にはポップな絆創膏が貼られている。活発な子なのだろうか…雰囲気的にドジっ娘の線は薄そうだ。


 パッと容姿を観察してみたが分かる事はその程度で自分に対する用事は全く見当がつかない。恐らく初対面だとは思うのだが…。


 その間彼女は何か気になるものでもあるのか、匂いを嗅ぐようなしぐさをしていたが一度止めて話しかけてきた。


「ここの家にはあなた以外に誰か住んでるの?」


 何だその質問は。ますます意味が分からない。


「えっとー、親は海外にいて今は俺一人しか住んでないけど…。」


一瞬、本当のことを言うか躊躇ったが素直に答えた。


「そう…じゃあ昨日窓から見てたのはあなた?」


 僅かに愛想笑いを湛えていた顔が引きつる。


「へ?」


「昨日の夜に私達のこと見てたでしょ?寝ぼけてたの?それともとぼけてる?」


 何か口調が少しキツいような?なんだか俺が悪かったような気…はしない、断じて。


「いや、もちろん覚えてる。君達のせいであれから眠れなくなって今日のとっても重要な大学の講義に出席できなかったよ。」


 全然重要じゃ無いけど。少しオーバーに言ってやった。


「それは…ご、ごめんなさい…。」


 なんだ、夜中に空き地で遊んでる様な不良少女の割には素直に謝れるじゃないか。


「その…もしかして警察とか学校とかに言ったりした?」


「…してないよ。今後も同じことがあったら分からないけど。」


「もうここではやらないようにするから………多分。」


(多分ってなんだよ…しかもここ以外ではやるのかよ!)


 心の中でツッコミを入れて、少し間があった後に彼女が聞いてきた。


「………あなたあんまり驚いてないのね。」


 どういう意味だ?お嬢様学校の、それも中学生が夜中に遊んでいたことに対してだろうか。


 確かに意外ではあるが…クリスマスだし調子に乗って夜遊びするような奴がお嬢様の中に1人ぐらい居てもおかしくはない…気もする……多分。


「まぁちょっとは驚いたけどさ………その…とりあえず中学生が夜中に外に出るのはやめた方がいいぞ?」


 柄にもなく少し説教じみた事を言ってしまった。


「わ、分かってるから…昨日は寝付けなくて…そのちょっと外を歩きたくなって…それで…。普段はそんなことしないし、学校じゃ優等生でやってるから…。」


 とんだ優等生がいたもんだな。


「…昨日の事、学校とか警察が信じるわけないと思うけど、とりあえず深夜に外にいた事に関しては私が悪いから…だから言わないでもらえると助かるの。」


 学校や警察が信じないというのは何だ?やはりお嬢様学校ともなるとよっぽど問題を起こすような生徒が少ないのか、それともこいつが本当に優等生だということを意味しているのだろうか。分からん。


「学校とか警察には言わないって。っていうか確かに昨日の夜に君の事は見たと思うけど顔までは見えてなかったし、寧ろ俺の所まで来たおかげで犯人が君と分かったぐらいだよ。」


 さらに他の人に至っては見てすらいない。


「な………そういう事は早く言いなさいよ!と、とにかく!チクらないでくれてありがと!」


 そう言い残すと彼女はサッサと帰って行った。


 わざわざ俺のところまで来て一応は謝っていたのをみると根は真面目な娘なんだろうか?そう思うと真面目なのか不良なのか、測りかねる女の子だ。


 これがいわゆるってやつなのだろうか。子供のいる人はこりゃあ大変だ。なんて世間のお父さんお母さんに同情しつつ彼女の後姿を見送った。

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