第1話
チュンチュン!チチチチチチチ!
雀が窓のサッシにでもとまっているのだろうか、かなり近くでけたたましくさえずっている。
せっかく面白い夢見てたのになぁ…なんて思いながらスマホの時計を見ると午前10時半を表示していた。…おかしいなスマホの時計も壊れちまうものなのか?
んな訳はない。寝坊したのだ。それも言い訳も効かないようなとんでもない寝坊だ。
(あー…今日はお休みだなぁー。)
今日の大学の講義は午前中の2コマだったのだが、今から行ったとしても2コマ目の講義が出席扱いされるかどうか怪しい時間である。
まだどちらも1回も休んでない講義だし、これといった提出物もなかったのが幸いだろうか。
週の真ん中の水曜日なら1限目でも起きられるだろうと思い履修登録をしたのだが流石に昨日の夜中のようなイレギュラーがあってはしょうがない…
………昨日の夜中…か…。
そうだ昨日の夜中に見たもの…あれはなんだったのだろうか?
結局眠りに就いたのは明け方だったような気がする。あれが夢だとしてもリアル過ぎたし何よりこの時間までアラームにも気付かずに爆睡していた事が現実だった事の証左といえるのでは?などとうだうだ考えながらもう一眠りしてやろうと布団を頭まで被って、次に気付いた時にはもう12時前だった。
眠くて寝ていたというより起きたくなかったのかもしれない。
実は寝ている間に宇宙人に別の星へと連れ去られてしまっていて外に出てみたら空に太陽が2つ浮かんでいた!…とか、実は寝ている間に殺されてしまっていてここは天国でした!…とかいう展開になっていたらどうしようか…。
意を決して布団から立ち上がりカーテンをガバッと開ける。恐る恐る空を見てみるが太陽が2つになってなどいなかったし、外にはいつもの見慣れた風景が広がっているだけだった。
空き地にも宇宙船の類などは置いていないし、夜中に土埃が立ち上がった辺りを確認してみてもこれといって痕跡のようなものも見当たらない。ということはやっぱり夢だったのか…?
……ぐぅ。
そんな事より腹が減ったと胃袋が訴えかける。なんて体は正直なんだ。
昼飯よ出てこいッ!と念じてみても願いが叶わない事からすると天国などでもなさそうだった。というか仮にここが天国だとしてお腹は空くのだろうか…?
なんて考えながら冷蔵庫を物色してみるが、飲み物とお菓子しか無い。
とりあえず腹を満たすためにコンビニで弁当でも買ってくることにした。
それにしてもこの時期は着替えるのも億劫なほど寒い。パジャマにアウターを羽織って出かけてやろうかと思ったが流石に良くないと思い直して着替えて家を後にする。
ガチャ…。
家から出てみたもののやっぱり昨日の事が気になってしょうがない。こっそりと空き地の方を見つつ歩いてみるがやはり何も変わった様子はなかった。
徒歩2分程の距離にある近所のコンビニは幼い頃からお世話になっていて、高校生の頃からは人手の足りない時にバイトで入る事も何度かあって、知り合いも何人かいる。
ティンローン♪
「いらっしゃいませー…って
「いや〜…今日は午前中講義があったんですけど起きれなくて…。そういう
渚さんは2年半ぐらい前からここでバイトしてる大学の先輩だ。
「私の学部は確か今週から冬休みだったかな?私はもうほとんど単位取り終わっちゃってるから先週から冬休みだけどね。」
と自慢気にピースサインの渚さん。
「流石、渚さんは真面目ですねぇ。でも来年から4年生だから色々大変なんじゃないですか?」
「…若草くん…その話は私に効くからやめよう…。」
俺にはまだよく分からないがセンシティブな話題なんだろうか。
さてと、弁当にするかそれともおにぎりとホットスナックにでもしようかと思案する。
「そういえば昨日さー夜中の雷?凄くなかったー?」
渚さんが何気無く言った言葉に弁当を選ぶ手が止まる。
「えっ!渚さんも見たんですか!?」
適当な弁当を選んでレジへ向かう。
「え?どうしたの急に??見たっていうか夜中に外光ってるなーって思っただけだけど…。」
「外は?外は見ました?」
「見てないよぉ。眠かったし寒かったし布団の中に潜ってそのまま寝ちゃいました。」
何故かドヤ顔で言う渚さん。
「でも音とか全く聞こえなかったですよね?」
「そうかなぁ?よく覚えてないなぁ。遠かったから音があんまり聞こえなかったとか?」
「でも昨日の夜晴れてたんですよ!?」
「えー!それは凄い!まさに青天の
そこでやっと俺は昨日がクリスマスイブだったということを思い出した。
高校生までこの時期はもう既に冬休みに入っていて毎年何かしらの予定もあったから物心ついた頃からクリスマスなんて一度も忘れた事は無かったのだが…。
昨日はいつも通り講義もあったし友人達はアルバイトがあるだのなんだので一人で帰っていつも通り過ごしていたせいですっかり失念してしまっていた。…そして今日から俺の学部も冬休みだ。
ピーピー!
丁度弁当を温め終わる音が鳴る。
「どうしたの若草くん?」
「あ、いや…なんでも…。またね渚さん。」
「またね〜」
いつもと同じ挨拶をしてコンビニを後にする。
渚さんも外が光るのを見たっていってたからどうやら夢ではなかったようだ。多分俺が見たのは宇宙人でもなんでもなくて、ただのクリスマスに羽目を外して遊んでた輩だったのだろう。
何者かに消される可能性が無くなった安心半分と安眠を邪魔した誰かに対しての不満半分といった気持ちで自宅に戻り、玄関のドアを開けようとした丁度その時だった。
「ちょっといいですか?」
突然掛けられた声に驚きと一抹の不安が過ぎる。
ゆっくり声がした方を振り向くと、そこには制服を着た女の子が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます