missing-link

蝉野るむ

prologue

 ピカッ………………ピカッ……。


 布団から体の一部を出すのもしんど過ぎる12月の深夜にとんでもない積乱雲が跋扈ばっこしているのではないかと思わせるような稲光が室内を照らしている。

しかしピカピカと光っているだけで音がしない。


 ヒュー………ガタガタ……。

ピカピカッ…………ピカッ…。


 強い風が窓を鳴らし、カーテンの隙間から目が痛くなるような光が瞼を貫く。

それにしてもこんなに音のしない雷も珍しいものだ。


「う…んー……。」


 俺は少しばかりの異様さを感じ、呻きながらうっすらと目を開けてベッドボードの上にあるはずの眼鏡を手で探す。


 寒さを凌ぐために布団を体に巻きつけながらもそもそと立ち上がり、より温度が低くなっている窓辺までのそのそと歩み寄る。


 そうしている間も窓の外は光り続け、寝惚け眼を刺激し続けた。


「んぁ…んだよ…眩しいなぁ…。」


 あくびをしながら小さく呟く。


 カーテンを引いて結露した窓を袖で擦り外を確認してみると最初に目に飛び込んできたのは驚くべきことに満月だった。


「んぁ…あぁ…?」


 おかしい…月だけじゃない、星々まで綺麗に見えるほどに快晴だ。窓からは満点の星空と数年前から使われる気配のないだだっ広い空き地しか見えない。つまりは俺が想像したような積乱雲などは少なくともこの窓から見える範囲には存在していなかったという事だ。


 そもそもこの日本の太平洋側の真冬に積乱雲なんてのも珍しい気もするのだがどうなんだろう…などと考えつつ空を見上げ続ける。すると再び空が光る。


「うわっ…」


 思わず声が漏れ出る程の光が雲一つないはずの空から届く。しかしどこが光っているのかは詳しく判別できない。1回…2回と続いて光が落ち着いた。


 夢でもみているのだろうかと思い定石通り頬をつねってみる。


(痛ぇ…)


 しっかりと痛みを感じた。


 夢じゃないとしたらなんだ?未確認飛行物体か?頼むから勘弁してくれよ。俺はキャトルミューティレーションだかアブダクションだったかはされたくないぞ。


 そんなものは端から信じちゃいないが最近テレビで航空会社のパイロット達が口を揃えて勤務中に未確認飛行物体を見たことがあるだのなんだの言ってる番組を観たばかりという事も加味されて俺は一瞬宇宙人の存在を信じそうになっていた。


 ボフッ……。


 鈍い音とともに月明かりにぼんやりと照らされた地面から土埃が舞う。


 流石に少し怖くなってきたがそれよりも好奇心が勝ったのだろう、いつのまにか巻きつけていた布団は剥がれ落ち、窓を開け放っていた。


 興奮で体が火照っているのか寒さはもうほとんど気にならない。


 土埃が舞った辺りに目を凝らす。


 徐々に土埃は治まり空から落ちてきたであろうモノの姿が露わになる。


(あれが…宇宙人か…?)


 それは人の形をしていた。体はそんなに大きくないように見える。


 片膝をついたその体勢はまるで何かをターミネートするために未来からやってきたアンドロイドを彷彿とさせた。


 そこでようやく俺はそれがこちらを向いている事に気付いた。


(やばっ…)


 変に干渉し過ぎると本当に何かされかねないと危険を感じた俺は窓とカーテンを勢いよく閉めてベッドに潜り込んだ。


(これはきっと夢だ!これはきっと夢だ!)


 そう念じながら再び眠ろうとする。幸いな事に何者かが窓ガラスをぶち破って俺を捕まえに来るような事はなかったが、興奮で上がった心拍数のせいでしばらく寝付くことはできなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る